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第二十二話:鳳凰に乗って

 ここ、木の国ハクオウは、居心地は良かったです。

 過剰なスキンシップかまして来る輩が二名ほどいるのに目を瞑れば、甘味を探す私の心にジャストミートな国でした。探せば、サトウキビすらあったんじゃないかなー・・・とすら思える、実り豊かな国。

 ・・・ミントな香りで、猛毒な危険物。

 ・・・メープルな香りで、胃痛を起こす危険物。

 ・・・桜餅の香りで笑いを誘う危険物。

 ・・・胡椒の香り、あじわいで、人をハイにする危険物。

 ・・・桃の香りと確かな味、しかしその実態は、思い返したくもない、破廉恥な危険物・・・・・・・おかしい。危険物しかないじゃん!

 いや待て。探し出せていないだけで、きっとあるはず、甘い甘い、おいしいものが!

 そう、オウランは、セイラン様と協力して、甘露を探してやると約束してくれたんだ。

 その約束の一環で、なんか再会を約束させられてしまったが、「なんちゃって桃」さえ食べなきゃおかしな雰囲気に陥ることもあるまいと(・・・)自分に言い聞かせ、今に至る。

 ・・・なぜか火の国・シャザクスのシャラ様が迎えに来てくれていました。ま、一人でどこかへ行けるはずもないので、ありがたいのですが、一国の王様が動いてくれてる事自体に違和感感じます・・・。

 私はそんなにたいした人間じゃないのに。

 そして、そんな私を横目に、シャラ様、セイラン様、オウランの三人で難しい顔して話しこんでいます。 ・・・何、深刻な顔で話しているんだろう。




 「で、喰ったな。」

 「喰った。だが最後までは、喰ってない。・・・泣かれてな。反省してる。」

 「つまみ食い程度だと思ったんだがな。」

 「その、加護の具合で、つまみ食い程度・・・?あやしいものだ。」

 「それほど、増幅力が高いということだ。だが、真実喰らえば、更なる精霊の加護を得られるかと問われれば、否と答えよう。」

 「ほう、なぜ?」

 「オウランの言だが、精霊巫女姫は清らかで在る事が望ましい、と。だが、無垢である事は、必ずしもよい事ではない、と。」

 「ふん、詭弁だな。」

 「ああ、詭弁にすぎない。けれど、無視は出来まい?姫を奪う事のみ考えて、全て失う事になったら、如何する。」

 「・・・土の国のように、か。」

 「・・・そうさ。盛り返すのは、大変だぞ。」

 「・・・では、肝に銘じておこう。しかし、姫に望まれれば、否やはないぞ。」

 「・・・あれが、望むとは、誰も思うまいよ。」

 「姫をあれ呼ばわり、か。まるで我が物顔だな。」

 「あれ、でだめなら、あの馬鹿、ではどうだ。ひとつ忠告しておくが・・・あの馬鹿を野放しにしておくと、すぐ死ぬぞ。あっちの常識の元、何でも口に入れるんだ。ピクサーの葉をあっちの食用の葉っぱと同視して喰いやがった。あの、幼子でも喰わないピクサーの葉だぞ。こっちの常識を叩き込んでおいたが、まだ足りない。精々気をつけろよ。」

 「なんでも、喰うのか・・・そりゃまた、危機感のない・・・」



 なんとも言えない表情の三人が私をじーっと見ています。

 あ、なんか、哀れまれている感じがするのは、気のせい?

 な・なんか、どんな事を話し合っていたのかが、想像できました。

 きっと、私のとった、困った行動を教えちゃったんですね!

 幼児でも判別できる劇物・危険物を判別できず、あまつさえ食べてしまった、私の恥ずかしい奇行の数々を!

 見る見る顔に血が上って真っ赤になった頃、とうとう、木の国とのお別れとなったのでした。しきりに、「気をつけろ」と私に言い聞かせてくるオウランと、「くれぐれも用心なさい」と私に言い聞かせてきたセイラン様。「心配要らない」と二人に言い切ったシャラ様に、食って掛かった二人・・・仲いいなあ。


 まあ、元の世界に帰れるのはまだ先のようなので、機会があったら、またここへ来てもいいかなーって言ったら、危機感が足りない!と怒られました。・・・なぜ。



 さて、シャザクスまでは、どうやって行くのかな。馬かな。駱駝かな。と、わくわくしていたら、シャラ様がにやりと笑って言いました。

 「陸路を隊を組んで歩いて行くのは商人の常識。海路を選ぶのもまた、商人の常識。」

 へー。海、あるんだー。

 「だが、俺は、火の国、シャザクスの王、シャラだ。現世でただひとり、火の鳥、鳳凰を使役する者!」

 ぶわり、と。

 熱を感じた。

 頬を照らす、赤。

 耳元を唸り行く風。

 金と朱金の火の粉を散らし、鳳凰が顕現した。

 「・・・きれい・・・」

 目が離せない、圧倒的威風。うっとりとつぶやくと、鳳凰はうれしそうに一声あげた。

 「姫なら、そう言ってくれると信じていた。」

 そう嬉しそうに言って、シャラ様は私を後ろから抱きしめると、ひらりと鳳凰の背に飛び乗った・・・。

 「では、参る」

 「きゃ・・・」

 鳳凰の首に巻きつく手綱を手に、すっくと立ったシャラ様が、傍らの王二人に視線を投げた。受けて立った、王二人は、視線そらさず、見つめ続ける。

 鳳凰の羽ばたきに、大地が渦を巻いた。

 ふわと浮かび上がる。

 自分がどこを支えにすればいいのか分からず、焦っていると、腰に逞しい腕が絡みついた。

 「そのまま、俺の腕の中にいろ。小一時間で着く。」

 「え・」

 そして、悲鳴を上げる間もなく、鳳凰は、飛び立った。


 後に残るは、王がふたり。

 「行ってしまったな。」

 「ああ。」

 「さて、次に姫に会えるときまで、姫が喜ぶ甘露を探す事にするか。」

 「俺は、一度国に帰るよ。チヒロのいないこの国には、用がない・・・。自国で、チヒロを釣るための新しい味覚でも探してみるさ。」

 「ふふ、どちらが姫を釣り上げることが出来るか、競争と行くかい?」

 「まあ、それもいいかな・・・」




 ・・・鳳凰は、羽ばたく。光の粉と火の粉を振りまきながら。

 ・・・鳳凰は、羽ばたく。火の国へと、チヒロを乗せて。



 チヒロは、わくわくしていた。

 目を輝かせて、鳳凰の背から地上を見下ろすチヒロの様子を、シャラは面白そうに見ていた。

 初めてだった。

 鳳凰を顕現させ、背に乗せ飛び立って、泣き喚かない姫など。

 この熱風。この高度。そしてこの速度。恐れない姫などいないのだ。なのに、この小さな姫は違う。鳳凰を綺麗と言い、その背に乗せらても恐れることなく、口元には笑みさえ浮かべている。

 シャラは、彼女を抱く腕に力を込めた。

 細く、柔らかい、その身体。なのに、彼女は、どんな姫君よりも豪胆で、潔いと思った。


 「シャザクスって、どんなところですか?」

 「紅い国だ。さまざまな鉱石が取れる。輝石は、女を輝かせ、男を酔わせる。硬石は武器になる。薬石も取れる。癒しもすれば、侵しもする。シャザクスは、石掘りと、傭兵の成果で食っている国だ。」

 「石掘りと、傭兵?」

 「そうだ。若い元気な男は傭兵部隊に入って戦に行く。年寄りや、怪我で戦えなくなった者が石を掘り出す。女達は、石を加工して生活の糧を得ている。」

 「石と傭兵。」

 「作物を作っていた土地からも有効な鉱物が取れる事が分かってから50年、国を挙げて掘ったからな。前王の治世から、輝石が取れる量が少なくなり、シャザクスは傭兵を育てるようになってきたんだ。だが、俺は我が民を他国の戦で失うのは嫌なんだ。だから、今、巫女姫が現われるかもしれないと噂された時、藁にも縋る気持ちで風の国へ赴いた。姫、俺の国をつぶさに見て欲しい。何か、民を養える産業を興さないと、シャザクスは滅んでしまうだろう。」

 「私なんかの考えで良いんですか?」

 「姫の感性で、国を見て欲しい。」

 





 



 

 

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