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第二話:現状把握

 あ、もふもふ。

 いや、ふかふかか。

 なんだろ、私の寝袋こんなに寝心地よかったかな。

 右にごろん。と転がって、

「ちょっと待て」と我に返る。

 

「ああ、そうだった。見逃したんだ」

 と、長いため息ひとつ。それから。

「これも、現実?」

 ビミョーにしり上がりで呟いてみた。




 あの、なんちゃらの巫女と呼ばれた後、カーシャは、細やかに説明してくれた。

 そらもう、帰ろうと思う気持ちが木っ端微塵になるくらい、細かく丁寧に。

 いわく。

 「黒い太陽が昼を暗く照らし、月がかげり星に隠れたるとき。精霊の巫女姫きたり」

 いわく。

 「そは、黒き太陽の巫女姫。艶めく黒をまとい、月色の甘い蜜の瞳もち、その腕からは至高の甘露、醸し出さん」

 いわく。

 「すべての精霊の上に立つことのできる,ただひとりの姫。この世界における水、火、風、木、土の気を持つ精霊巫女の頂点に立つお方!」

 


 抵抗しましたよ。

 私はそんなたいした人間じゃないですから。

 人違いですって。

 でもカーシャは譲らない。

 間違えるはずなんか無い、絶対あなただと言い切る彼女に、困ってしまって。

 「じゃあ、きっとこの世界に私以外の地球人が飛ばされているはずだ!私みたいな黒髪の、月色の瞳の日本人が!」

 って言ったんだ・・・。

 ・・・余談だけど、私の瞳は、確かに月色をしている。日本人特有の黒じゃないし、茶色でもない。光の加減で薄くも濃くもなるこの瞳は、確かに夜空に浮かぶまん丸お月さんの色だった。私が天体オタになる、きっかけの瞳。

 でも。

 「いるよ、いる。黒髪にお月さんの瞳の女の子。きっと今頃困っているはずだから、探してあげて。見つけてあげて。・・・そして私を元の世界に還してちょうだい」

 懇願するも、さらりと告げられた言葉は。


 「黒い太陽の巫女は46年前にも一人現れました。けれどその巫女姫様は、黒髪に月の瞳ではなく黒髪に黒い瞳だったそうです。そのため、月の加護が十分に受けられず、太陽と月の巫女とは呼ばれなかったそうです。黒髪黒目の娘は黒い太陽の巫女として天寿をまっとうされ、三年前にこの世を去っておられます。彼女の最後の詔が、今日。このときだったのです。黒い太陽の巫女はおっしゃいました。三年後の今日この時、この神殿に新たなる巫女が現れると。

・・・そして、あなた様が現れた。黒髪に月色の瞳・・・間違いなくあなたです。お待ちしておりました、私の巫女姫」

 カーシャは私の前にひざまずくと、胸の前で両腕を交差し頭をたれて。

「太陽と月の巫女。御前に侍り謹んで忠誠を誓います。貴女の風となり、光となり、時にほむらに、時に大地に、この身の全て持ちあなたを守ります。風と光の巫女カーシャ・イル・セランの名の下に」


 忠誠誓われちゃったよ・・・。

 しかもさらっと言ったけど、46年前の皆既日食の時にもひとり迷い込んだって事よね・・・?

 しかも、天寿って・・・死んじゃったって事?この世界で?

「前の巫女さんは、帰りたいって言わなかったの?それとも、帰れない・の・・・?」

 声がかすれたわ。

 ひざが、震えたわ。

「帰る方法はただひとつ。黒い太陽に願うのみ」


・・・・・。

・・・・・。

ソレッテ、26年後ッテコトデスカ・・・。








 そうだ。そして、精神の堤防が決壊して大泣きしたんだっけ・・・。目、痛い。


 ゆっくりと起き上がる。


 カーシャは、根気よく慰めてくれた。


「太陽と月の巫女として力を行使することができれば、声を伝えることはできるのです。現に黒い太陽の巫女はそうなされたそうです。ですから、チヒロさま。精霊の声をお聞きください。心を広げて、精霊を受け入れるのです。彼らは貴女の味方です」


「・・・味方・・・?」

「ええ」

ぐすんとひとつ、鼻をすすって、きっとひどい顔をしてるだろう私に、それはそれは優しくきれいな顔で微笑んで、カーシャは頷いた。

「精霊は、貴女の味方です」

「あなた、は・・・?あなたも、私の味方・・・?」

「もちろんです」


ああ。解った。

仕方の無いことだと。

ならば、

「えと、よろしくおねがいします」

ぺこりと頭を下げる。

「これからいろいろ、おしえてください」

泣きすぎた頭でも少し冷えれば気づく。

 今は、帰れない。

 なら帰れるように、準備をしなくては。

 今が無理でも、いつか、きっと家族のもとに帰る。

 帰れないなら、声だけでも。手紙だけでも。

 

貴女もそうしたんでしょう?黒い太陽の巫女さん。




 もふもふの誘惑から身をはがす。

 ふかふかのベッド。

 「どこのお姫様仕様デスカ・・・」

 天蓋なんてはじめてみた。

 しかしやはり無駄にきらきらしてる。

 「落ち着かない・・・」

 六畳一間の私の部屋がいったい何個入るんだ。自慢じゃないが寝袋に入ればどこでも寝れるお気楽天体オタの私にはもったいない寝床ですね。

 とてとてと、歩いてやっとたどり着く窓際の厚いカーテンをさっと引く。

 まぶしい朝日が目に飛び込んだ。

「異世界落ち、一日目」


 コンコンとノックの音がする。それに返事を返しつつドアのほうへ身を返した。


 開くドアの向こうには、きっと優しげなカーシャの笑顔があるんだろう。

 今は唯一の味方で、お姉さん気質の私の先生。

 私は始まりの予感を感じつつ、一歩踏み出した。





 

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