第十一話:男尊女卑?
一度ならず二度までも唇奪われた私は、我を忘れていたんだろうな。
自業自得ってありがたい言葉を骨まで染込ませてやりたい、奴、オウランは。
中庭の噴水にずっぽりとはまっておりました。
なんかもろもろ凄かった・・・。
凄まじい音とともに消えうせた壁。・・・吹き飛ばしたな。
華麗な曲線描きつつ、風の塊がそばを通り抜けた。・・・わたしには優しいひと撫でだったけど。
派手な悲鳴と、派手な水音。・・・。
『飛んだ!見て見て姫様!すごいでしょう?』
私の周りできゃらきゃらと笑う声がする。風の精霊達が無邪気に話しかけてくる。
『姫様、どうする?見えなくなるまで吹き飛ばそうか?それとも、火の奴も怒ってるから燃やそうか?風送るよ?』
『燃やす?燃やす?』
風の精霊に煽られた火の精霊の気が満ちる。このままじゃ本当に燃やしてしまいそうだ。やな奴なのは間違いないけど、それはやはりいかんでしょう。
「たすけてくれてありがとう。でも、燃やしちゃうのはだめね。後飛ばしちゃうのも・・・あぶないよ。怪我させちゃったら大変。」
過激な行動に比例して過激な行動を取った精霊達ににっこりし、労ってからカーシャを見た。
「カーシャさん、まず、この世界の常識を教えてください。初対面の女性に口付けるのは普通のことなんですか?」
「いいえ!」
「じゃあ、世間知らずの小娘に、畳み掛けるように出国を促す人間って、どう思います?」
「人買い、もしくは人攫いですわ!」
私とカーシャはお互いの目を見つめあい、大きく頷いた。
よし。
人攫い決定。
「そういうことなので、どこの国に行くとか、誰のものになるとかは、わかりません。私は、今のところ、カーシャさんに教えを乞うただの生徒に過ぎません。大体、この世界のこと何もわからないんだから、俺を選べとか言われても、選べるわけが無いんです。」
「姫巫女殿は、風の長の言葉のみ信じると・・・?」
セイランさまが、苦いものをかむような顔で言った。他のきらきらたちも似たり寄ったりな顔をしている。私は、大きなため息をついた。
「あのですね、わたしだって、何もカーシャさんの言葉のみ信じようとも思ってません。
私はこの世界で生きていかなきゃならないんですから、最低限知っておかなきゃならない一般常識を教えて欲しいと言ってるんです。
その中には、もちろん、王様達の国のことも、姫巫女って呼ばれていた人たちのことも含まれなくちゃいけませんけどね。私の処遇はわたしが決めます。一方的に畳み掛けて、自国へ来いってのは、乱暴なことだと思いませんか?今までの巫女さんはそれで良いと言ったのかわかりませんが、わたしは、ごめんです。
わたしは、わたしのために、わたしを託せる人物を選びたいんです。今のところ、それがカーシャさんだってことなんです。・・・まあ、あと、女性ってのが理由としては大きいですが。そんなに、洗脳されるのが心配なら、みなさんも、私の先生を推薦してくれればいいですよ。学ぶ気ばっちりですから!」
「・・・だから、俺がオシエテヤルと・・・」
赤い髪のシャラさまが言った。
「却下。」
にっこり笑って言い放つ。キス以上のものを教えられちゃ叶わんし、教えてもらう気もありません。
「先生は、女性でお願いしますね。」
こうして、太陽と月の巫女の先生・・・導き人の選定が始まったのだけどこれが結構大変だった。
第一に、この世界では、女性はあまり地位が高くない。(神殿の姫巫女は別)
教育は均等に行われているが、それもいわゆる、花嫁修行の一環だ。
しかも、国の明暗がかかっている(自覚無かった・・・)、姫巫女の先生。
もともと、姫巫女は現われると各国の王が保護し、王宮に囲われてしまうので導き人はその時代の王が担っていた。導き人を自ら欲した巫女は、わたしが始めてらしい。
なんとなくお開きになり、オウランの怪我には見ない振りをして、部屋へ戻った私に、カーシャがついてきた。
「自国のものを派遣するまでは、この世界の成り立ちを教えるぐらいに留めよといわれましたわ。」
そういって笑うカーシャに、ちょっと心配になって聞いてみた。
「カーシャさんに教わるって言ったの、まずかった・・・?」
「いいえ。」
「王様達のカーシャさんを見る目が怖かったようだけど、だいじょうぶ?」
「・・・この国に限らず、火も水も土も木も、女性は弱い立場なのです。それは、風の長と呼ばれるわたしとて同じこと。ただ少し、他の女性と違い、精霊の加護が在るゆえ、多少の無礼を許してもらえるだけのこと。・・・殿方たちの思い通りにしか動くことは許されません。それが我が王なら尚のこと。
・・・王の目を見てはっきりと物を言ったチヒロさまが,うらやましい。あんなふうにいやな物はいやと言えたなら、どんなに・・・。」
「いやな物はいやよ。いったらだめなの?どうなるの?」
「チヒロさまはどうもなりません。」
ゆるゆると、首を振るカーシャに詰め寄った。
「私はどうもならないってのは、、わたしが太陽と月の巫女だから、よね。姫巫女ってそんなに大事な存在なの?」
「ええ。姫巫女が現われると、100年国が潤う、と言い伝えにもありますわ。実際、姫巫女さまがいらした国は栄えました。土地は豊かに、水は清らに豊作は約束されたものとなり、新しい産業を興す切欠ともなります。」
カーシャが頷く。
「・・・100年、200年も現われない、いつ来るかも解らない人間に国の未来を託すの?そんな人待ってるより、国をより良くするには他に方法あるじゃない。たとえば・・・」
う〜んと考え始めた私の横で、カーシャは小首を傾げた。
「たとえば?」
「・・・食の改善!あの料理は、どうなの?カーシャは普通に食べてるんだろうけど、あれがふつうなの・・・?」
「食事、ですか?いつもより料理長の気合を感じましたが、別段何も・・・」
目をぱちくりさせてカーシャが言う。
・・・いつもかい!!
敵は、きらきら王子様のみに在らず。誰か、この国の人たちの味覚に喝をいれてくれ。
なんか、打ちのめされた感じがしないでもないが、しつこく聞いてみる。
「カーシャさん、ほかの国の料理の特色は・・・?」
「・・・・・食材は違うものも在るでしょうが、大体どこの国もあんな感じだったと記憶しておりますが・・・。」
撤回。この国の、じゃなく、この世界の人たちの、味覚に喝をいれてください・・・。