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番外編 そ バレンタイン異聞

バレンタインねたなのに、色気なしですよ、どうします、だんな。

ぇ、裏に行けば良いって? イヤダナ、そんな実もふたもない・・・。

 土の国には、王族が管理経営する学院がある。

 

 最高の教育を施し、国の中枢を担う人材を育成するための教育機関だ。


 ・・・平民のための教育機関は無かった。

 あったとしても稼動はしなかっただろう。

 働き手がいなくなる。と親が子を通わせるのを嫌がるのはわかっていた。


 でもこの実情を、指をくわえてみているわけに行かないと、チヒロは立ち上がった。


 「読み書きが出来るものはいるのですから、彼らの言うことを聞いていれば良いんだよ」


 読めない書けない人たちはそういう。


 「でも、やさしい人だけじゃないよ?」


 「中央の役職につく者なんだから、そんなにひどいことは・・・」

 現状に甘んじて、動くことを嫌う人も。


 「しないとは言い切れないよね?」

 チヒロは声が、浸透するのを待って、話し始めた。


 「文字が読めれば、書類の意味を理解することが出来るよね? 計算が出来れば、請求された金額のごまかしが効かなくなるよ。誰だって騙されるのは嫌いよね? 私も騙されるのは嫌いだよ。でも、考えてみて。頭の良い人たちは難しい言葉や難しい計算方法を示して、みんなの思考停止を待っているかもしれないのよ?」

 その言葉に町の人は目を見張った。

 「勉強するって、すばらしいことよ? いま、やらなきゃいけないことは、明日食べるために子供を働かせることじゃないわ。十年後、二十年後、あなたの子供たちが、騙されずに生活できるように、学ばせることなの」

 王妃陛下の不思議な色の瞳が、彼らをじっと見つめていった。


 

 「・・・私の夫は病気で亡くなりました。片親では、この子にも食い扶持を稼いでもらわなきゃならないんです。そりゃ、子供のためとは言え、学ばせるお金なんて・・・」

 つっかえつっかえ、言い募る寡婦の姿は、貧しい人の中でも一層の貧しさをうかがわせた。

 ・・・確かに彼女一人では子供を抱えて途方にくれたままになるだろう。

 でも、こういった人たちの手助けになるように、準備を進めてきたのだ。

 チヒロは寡婦の手をとった。ひざまずいて、彼女の目線と合わせる。

 かさついた、手。やせて色あせた肌。働くことの厳しさを知る手だ。

 「神殿に行って見た? 父子、母子家庭に支援を行っているの。そういった家庭環境の子供たちは午前中、学校へ行って勉強して、給食を食べた後、午後は仕事を斡旋してもらえるのよ?」



 ・・・オウランにお願いして、学校の費用はチヒロ名義の貯金から出すことにしてあった。


 でも学校の建物。教師。教科書。どれだけお金があっても足りない。

 チヒロの開発した食品加工物で得た資金が根幹で、食料品だからこそ、得た資金は永久的に使えるだろう。だがそれでも足りないのだ。

 はじめから国民に学費を請求する気はなかった。それをしたら誰も通えないからだ。

 貴族学校は国が資金を出し、学費を払って親が通わせているから、存続できた。

 なるほど教授陣も壮観で、備品もすばらしい。建物なんて、どこの高級ホテル? って感じだ。それでも経営が逼迫しないのは親がこぞって寄付をしているかららしい。

 じゃ、せめて貴族学校と同じだけの金額を、国が平民学校にもだしてくれないかなーと思って議題にかけたんだけど・・・。

 国庫を潤すはずの金を、平民学校へ回すと聞いて貴族は反対した。

 貴族でもない平民が学ぶことに意義を見出せない彼らは、貴重な資金を出すことを渋ったのだ。

 

 「王妃陛下は、国の運営に対しては素人でしょう」

 したり顔で笑われた。

 「貴族学校の整備ならまだしも、平民が通う学校なんて!」

 口元のゆがみが、笑顔を台無しにしてるのに、気がついてないね。

 「どうしてもと仰るなら、ご自分の資産から捻出されれば良かろう!」

 たゆたゆと揺れる腹。・・・なにが入ってるのかな?


 騒ぎ立てられて、目の前が赤く燃えた気がした。

 一時的なお金じゃなくて、恒久続く資金の確立を目指しているのだ。

 学校始めました。

 でも三月だけでお仕舞いになりますじゃ、困るんだ! 冷やし中華じゃないんだからさ!

 この国の将来に、教育は役に立つ。絶対だ! 

 だからこそ議題にかけてもらって、こうして議論しているのに。

 嫌なおっさんたちを視界から切り離して、自分の隣に座るオウランに、にっこり笑って聞いたんだ。


 「・・・我が君、私が所有する開発技術と加工技術、その資産は?」

 「ああ、これだ」

 ポン、と書類の束を渡された。ぱらぱらと中に目を通す。

 各種加工食品、加工技術機械、医療制度の整備、予防接種の開発、温泉保養施設、調味料・・・。

 うわー、なんか、思いつくままにやってたけど、こんなにあった。

 わあ、今年も結構予算確保してくれてるー。

 うれしいなあ。期待してくれている証拠だもんね!


 「では、我が君。私が開発した技術分野で、他国に渡っても惜しくない技術は?」


 お金がないなら技術を提供すれば良いんじゃないかな? 

 乳製品を加工するための機械なんかは、高く売れるけど、そう何度も買ってもらえない。

 ならばいっそ、真似の利かない技術を売っちゃえば、大きなお金が動くかも。

 そう思ってオウランの顔を見た。

 オウランも面白そうな顔をして私を見つめてくれた。

 「そうだな・・・。虫除けの薬剤なんか、どうだ? 他国に渡っても別に惜しくはないぞ。それどころか、発生する疫病自体が減るだろうな」

 他国から入り込む病原菌もなくなって一石二鳥じゃないか?

 

 「虫除けの薬剤だけでは完全じゃありません。蚊帳の形状と、・・・上下水道の整備法は?」

 来る虫を駆除してたらきりがないもん。元から絶たなきゃ。

 それにはなんていっても上下水道の完備よね! 今のところ、その技術って土の国の一手独裁だから、これを事業としたら、各国からうんとお金がもらえるなー!

 私的にいい事思いついた!って感じだった。

 「・・・いいだろう」

 だから、オウランが頷いてくれて、嬉しくなった。・・・のになあ・・・。

 俄然、狸が騒ぎ出した。あああ、もう!


 「陛下! 上下水道は、あれは私めが一手にお引き受けしている事業ではございませんか!」

 え、あんたが上下水道技術管理してたの?

 うわわ、なんかにらまれたよ! え、私悪いこと言ってないよ?

 だってみんな、国庫からお金出すこと渋るから、じゃあ、開発した技術、他国に売ってお金に変えるかなーって考えただけだよ? 

 

 「虫除けの薬剤についてもそうです! あれを知るために何人の間者が国に入り込んでいるか!」

 へー。アルフィリアと研究開発した虫除け、あんたんとこで製造してるのかー・・・。

 慌てたように叫ぶ狸が、あっちもこっちもだ。

 しかも舌打ちされた挙句、余計なことを!とにらまれた。

 ええー、いい考えだと思うのになー。

 困ってしまってオウランを見た。・・・うあ。

 

 ・・・見なきゃ良かった・・・。


 「・・・ほぅ。で、ずいぶんと懐が潤っているようだな・・・」

 オウランが目を細めて呟いた。


 そこに居たすべてのものが息を呑み、冷や汗をかいていることだろう。

 私だってここに十字架があれば、握りしめて祈ってるさ! 信者じゃないからしないけどさ!


 玉座に座る若者は、確かに王者の風格で、居並ぶものを見下ろしている。

 細く眇められた眼差しは、厳しく彼らを睥睨していた。

 こういう雰囲気のオウランには、近寄っちゃいけない。

 わたし、わたしは、木だ! もぶだ、もぶ! 壁に溶け込むのよ、チヒロ!


 「独占は発展の妨げとなり、停滞を生み出しますな。技術を他国へ広く知らしめて、競争させることこそ、発展に繋がるもの」

 オウランの威風に頓着しないのなんて、ログワさんくらいだ。いつもどおり、オウランの左脇に立ち、心持ち腰をかがめてオウランの耳元に進言する。

 その言葉に頷いて、オウランが彼らを見た。

 「・・・チヒロは、貴様たちの懐を潤すために、技術を開発したわけではない」

 低くささやくような声は、けれども厳しい言葉の槍で、彼らの胸を射抜いていった。


 「賄賂を得ていた証拠も揃っている。身辺きれいにしてやろう。・・・ログワ」

 「御意」

 「へ、陛下!」

 「我が君!」

 近衛騎士がざっと彼らを取り囲んだ。

 「え、ちょ、ちょっと待って」

 これって弾劾裁判だったの?

 慌ててオウランを見上げたら、オウランが私にだけ分かるように瞳で微笑んだ。

 

 「・・・即刻、謹慎させて、管理する家も荘園も領地も整理してやるつもりだったがな。・・・チヒロに感謝することだ。懐を潤わせてくれた上、命乞いまでしてくれるのだ。これ以上、得がたい巫女姫はおるまいよ・・・。チヒロの技術で潤った分を残さず出せ。さらに、今後、平民学校への資金提供を担うと誓うのならば」

 「ち・・・誓います!」

 「誓います、我が君!」


 「・・・よし。ログワ。書面を」

 今後、代が変わっても、平民学校への資金提供を続けるという書類だ。目を通せ。

 読んだか?

 ・・・では、サインしろ。



 目を白黒させた狸たちがおたおたする中で、粛々と署名がなされた。


 彼らが一様に顔色が悪かったのは、気のせいじゃないと思う。

 


 それにしても。

 この場合、お礼を延べるべきなのだけど・・・言わないほうが良い、よ、ね?

 

 ・・・ご愁傷様って言うべきだった、か?




 

 *********



 「奴らが、技術提供を逆手に懐を潤していたのは知っていた。微々たる物だったから、弱みは弱みとして押さえておいた方が良いかと・・・チヒロ?」


 むーと膨れていたら、膨らんだホッペを突付かれた。


 「学校をつくるのだろう?」


 それでもつんと明後日を向いていた。わかっているんだ、だけどね。


 「不幸になる子供たちを減らすのだろう? 搾取される奴隷ではなく、新しい未来を手に入れる強い大人になれるように・・・手を、貸すのだろう?」


 うん。

 小さく頷いたら、オウランがにっこり微笑んでくれた。

 じわじわと湧き上がる。

 え、その、惚れ直したなんて、思ってないよ!?


 思って、ないからね!

 

 

 ・・・それから、王命で行う公共事業の手配を、神殿で行うようにしてもらった。


 現実問題として働かなければ食べていけない子供たちを、国が雇うことにしたのだ。

 神殿に併設された学校で、子供たちは、午前中勉強し、給食を食べて、午後、仕事に行く。



 *********



 「・・・もっと大々的に布告しなくちゃいけないねー」

 学校が出来て、神殿では子供たちの声が響くことが多くなった。

 勉強を教えてくれるのは、もっぱら神官さんだ。

 その学校兼神殿の一角、調理室で日々王妃陛下はこまごまと働いていた。

 気分は給食室のおばちゃんだ。

 給食は偉大だ。

 においにつられて増え始めた生徒たち。

 お昼をただで食べられるなら、と学校に向かわせる親もいたけど、おおむね良好だった。

 

 「今度九九、教えてあげよーっと」


 ニコニコしながら王妃は手を動かす。

 

 かしゃかしゃと泡たて機で卵を蜂蜜と泡立てて、生クリームにレンの実をたっぷりと摩り下ろして入れる。


 粉はごく細めにひいてもらった粉だ。


 最後に溶かしバターを流しいれ、型に移して焼き上げた。


 香ばしいチョコレートの香り。遠くにひそりとオレンジの香り。


 シロップをピケして落ち着かせてから、生クリームをあわ立てて、ふわふわをトッピングする。


 ところどころに飾り用に取っておいた、レンの実を薄くスライスして飾ってみた。・・・可愛い。


 「うふ。これも上出来!」


 ニコニコ笑顔で作ったケーキは今日の給食のデザートだ。

 甘いお菓子は子供たちの心をとらえて離さない。

 


 



 ・・・ちなみにオウランにはもう作ってあって、きれいにラッピング済みだ。


 気合が入るのも仕方がない。


 日々のいたわりと、ねぎらいをかねて。


 だって今日は。


 「バレンタイン、だもんね!」


 

 

 ハッピーバレンタイン。さて今年のバレンタイン皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今回、長く間を空けてしまい申し訳ない思いでいっぱいです。次はそうかからずに出したい・・・な・・・。

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