第一話:皆既日食で私も消えた
・・・巷では、四十六年ぶりだという皆既日食で、フィーバー(古)していた今日の日本。
・・・私は、この日、この地から放り出された。
「うっそー!世紀の大パノラマ見逃した!」
次は26年後なんだよ。どうしよう。ダイヤモンドリングに黒い太陽。滲むコロナ、太陽と月の輝き。レンズも準備したし、照る照る坊主に願だってかけた。なのに、なのに・・・。
滑って、転んで、頭蓋を強打(なんとなく覚えてる)。気絶してる間に・・・いま、夜!
なぜ!なぜ誰も起こしてくれないの!ここにいる人たちは、天体観測という崇高な趣味の元に集まった、いわゆる天文オタクでしょう!これを逃すと26年後!私、四十二歳になっちゃうのに!
「ひどい!何で起こしてくれなかったの!・・・・・」
ざわり、と周りで人の気配がする。
ざわり、ざわり、と。
波が寄せて帰すかのごとく。
事、ここに至り、ようやく私は気がついた。
天体観測よりよほど好奇心が刺激されるこの現象。
(だって、日本のさらに小さなあの島には、顔なじみの天文オタクの方々がいたんだ)
断じて。
断じて、鮮やかな髪色の、どこの中世ヨーロッパな服装の、キラキラしい殿方たちはあの島にはいなかった・・・!
目が。痛い。
(ひい〜きらきらしてる!無駄にキラキラしてるよう!)
現在進行形で、あわあわとパニックしてると、人垣が分かたれて一人、進み出た。
ふわふわの淡い金髪。白皙ってこういう子のことを言うんだろうな、色、白い。瞳は金色。唇はチェリーピンク。つやつやぷるん。その子がまっすぐこちらを見て、言った。
「lllkjp?」
・・・・・何語ですか?
英語?中国語?ドイツ語?
いえ、そもそも、ここはどこですか?そもそも、地球ですか?
私、もしかして巷でよく読まれてる、異世界召還の犠牲者ですか?
腕力も、知性も、魔力も無い、タダの天体オタですよ?
えと、
気絶していいですか・・・?
あ、現実逃避はだめですか・・・。
らちが明かないと思ったのか、うずくまっている私の元に、金髪ふわふわ美女が静々と近寄ってきて、繊細な両手で私の両頬をおさえた。そのまま軽く顎を上げられて、おでこにキス。
次いで右の耳、さらに左の耳へ。
あは、なんか儀式みたいね。これで言葉が通じたら世話無いよ。
「わかりますか?」
「なぜ!」
何で通じるのさー!
・・・・・
・・・・・
・・・え。
・・・ええと。
改めまして。こんにちは。
ワタクシ、地球の日本という国の生まれで、姓は大月、名は千尋と申します。
年は16、学生です。
花も恥らう乙女でありますが天体オタを自負する、一般人です。
マオウナンカタオセマセンヨ。
棒読みで一気に自己紹介。
なんせ私の格好は、天体観測用にそろえた山登るの?な服装で。
持ち物は、でかいリュックひとつ。(天体観測グッズといざというときの非常食セット入り)
足にはゴツイ山登り用シューズ。手には太陽レンズ。
え・ええ・と。
どうしろと?
「私は、この国シェンランの巫女、カーシャ・イル・セランと申します。突然の召還で驚かれたことでしょう、オオツキ・チヒロさま?あなたを迎えて、この地の精霊たちが喜んでおります。太陽と月の巫女が現れたと」
「たいようとつきのみこ」
その言葉をつぶやいた私の耳に、先ほどの波のうねりのようなざわめきが、いっそう激しくなり・・・押しつぶされそうな空気に体を震わせた。