敵はウチにアリ
「えー、まずは紹介しよう。私の妻にして奏の母だ。」
「母です。」
「……そんなわけないでしょう。」
バカな自己紹介をする自称夫婦を娘は怒りに燃えた冷めた瞳に映す。
「わたしのお母さんは普通の人間でした。」
母のことはぼんやりとしか覚えていない。
それでも母親の翼やら肉球やらを気にしたことはない。普通の人間だったはずである。
「いつも握ってくれた手に肉球はなかったし」
「ほい」
自称母の手が普通の人間の手になった。
「おぶってくれた背には翼はなかった。」
「はい」
自称母の背中から翼が消えた。
「………お母さん?」
まだ耳とか足とか気になる点はあるが、その姿は記憶にある母によく似ている。
「だからそうだってば。」
そう言いながら苦笑する姿はよく覚えている。
我儘を言うといつもその苦笑をして、頭を撫でてくれた。
「ようやくわかってくれたみたいだな。」
「いえわかりませんよ。」
娘の視線は父の方へと向けられた。
「どういう状況なんですか?」
「う、うむ。まあざっくり言えば出ていった母さんが戻ってきた。」
それだけならばあれえない話ではないだろう。
だが戻ってきた母が翼と肉球生やしてくることはまずない。
「そもそもこの人?は本当にお母さんなんですか?」
「それは間違いない。ここにいるのは奏の母親で私の妻だ。」
父の断言と自分の記憶。
その二つを合わせて取りあえず信じることにする。
「じゃあなんでお母さんに肉球と翼が生えてるんですか?」
「それは逆だ。そもそも母さんには肉球と翼が生えていた。」
「何を言っているんですか?」
奏の記憶の母には肉球も翼もなかった。
「本当よ奏。」
「………もっとちゃんと説明してください。」
「あなたのお父さん、学はケモナーなのよ!」