新たなる敵
「わたしは強くなった。」
奏はポケットからカードを取り出して呟いた。
二枚のカード、一枚は雪丸、もう一枚は鈴木のカードだ。
奏が持つ二体の式神、その式神を呼び出す術が封じられている。
修行から戻った奏、それを出迎えた父は目を丸くした。
どうやら自分の娘が修行を果たすとは思っていなかったようだ。
そして、鈴木のカードを見た時には腰を抜かしていた。
そして父から言われたのは『もはやそこらへんの鬼は奏の脅威とはなるまい』との言葉、その言葉に自信をもって前に敗北した鬼を探し、そして見つけ出した。
しかし、その結果は微妙なものだった。
襲われていた女性が幸せになったという意味では、鬼より人の平和を守る陰陽師としては勝利なのかも知れない。
だが勝ち方としては不戦勝であり、不完全燃焼は否めない。
「戦いたい。」
別に戦いが好きなわけじゃない。
だがせっかく父が腰を抜かすような式神を手に入れたのだ。
使ってみて、どれほどのものなのか試したい。
そう思って夜に出歩いてみても、悪さをする鬼の気配はなく、出会うのは鬼と鬼嫁のバカップルばかり。
平和が一番、平和が一番なのだが
「せっかく修行したのに………」
せっかく手に入れた式神を使わなければ、修行し甲斐がないというものである。
「お父さんに相談してみようかな。」
決意した奏の行動は速い。
二階の自室から降りて、一階の父の部屋へと向かった。
「お父さん。奏です。」
ノックをするが反応がない。
もう仕事からは帰ってきているはずなのだが………
「入りますよ?」
何かあったのかと思って扉を開くと、そこには二人の人物がいた。
一人は奏の父・学。そしてもう一人は
「お父さん?この人?誰ですか?」
性別は女、翼が生えており、手は猫のような手で肉球もあり、尻尾まで生えている。
どう考えても普通の人間じゃない女と父親は抱き合っていた。
「え?いや、違うんだ奏!」
娘からの冷たい視線を感じ取ったのか慌てたように抗弁する父親。
「お父さん、お母さんがいなくなってから七年。別に他に好きな人が出来るのが悪いとは思いません。しかし」
「だから違うんだ!」
それに対して更に冷え込む娘に必死の熱を込める父親。
奏も父が再婚することを反対はしない。
母がいなくなったのは奏が五才の時だ。
記憶の母はぼんやりとしているが、元気で奏ともよく遊んでくれた。
その母が急に奏の前から姿を消した時はショックだった。
そんな奏に気を使ってか、父は女性と付き合うこともなく七年を過ごした。
そんな父が再婚したいというなら、奏は受け入れられるかはわからないが、祝福はしたい。
だが物事には順序と言うものがあるだろう。
抱き合おうが何しようが勝手だが、家でそういうことをするなら、その前にせめて娘に合わせて挨拶ぐらいするのが筋ではないのか?
それを
「奏?大きくなったのね。」
「なんですか馴れ馴れしい。」
ぱあと顔が晴れた女に思わず奏は刺々しく切り返す。
そもそも彼女はなんなのか?人間ではないようだし、父の式神かそれとも野生の神か魔か………
「そうよね……奏はまだ小さかったもの。覚えていなくても」
「奏!彼女はだな」
「彼女。はあ、ふーん、そおう。」
「でも、それならそれの方が良いのかも知れない。これからのことにあなたを巻き込むわけにはいかないもの」
「そういう意味の彼女じゃない!この人は」
「言い訳は見苦しいですよお父さん!」
「うるさい!」
父と娘の言い合いにパリパリとした怒声が響いた。
「あなた!母と娘の再開にごちゃごちゃ言うなんて野暮よ!」
「母?」
「あ……」
ふんと胸を張る女性、そして呆然とする娘、言いやがったという顔をする父。
気まずい沈黙が家庭に広がっていった。