祖父と孫 初めての対決
「対決の形式は我は一人、奏は式神を好きなだけ使うが良い。」
奏の祖父である山本が用意したリングは家の庭である。
庭と言っても広く、軽く運動場ぐらいはあるだろう。
そこには様々な鬼や魔が奏達を囲って立っていた。
「奏、やめなさい!」
「大丈夫です。」
止める母を手で押さえる娘。
今から戦うのは魔王を名乗る相手にして祖父。
「わたしだって陰陽師。挑まれて逃げるわけにはいきません。」
魔の掟として、勝者は敗者に従うという規則があるという。
しかし、魔王とて自分の娘と戦いたくはなく、その娘を奪った男とは会いたくもない。
そこで折衷案として、自分の娘と会いたくない男の子供・奏と戦うことにしたらしい。
相手は強大な魔を従える魔王。並みの相手ではない。
しかし、勝算はある。
こちらにだって強力な式神が二体もいるのだ。
「では来い!」
魔王・山本が翼を大きく広げる。
「式神・雪丸!」
奏はカードを取り出して雪丸を召喚する。
奏の相棒にして最初の式神。これまでの戦いでも頑張ってくれている。
「ぬいわ!」
山本は額の目をカっと見開いた。
鋭い嘴で突っ込む雪丸は、その視線だけで吹き飛ばされる。
「雪丸!」
ダウンした雪丸を抱えてポケットに入れる。
「もう終わりか?」
「くっ……鈴木さん!」
もう一枚のカードを取り出すと、願力を込める。
そして現れたのは巨大な甲羅のついた首長竜。
「ほう。今度はまともなのが出てきたではないか。」
「鈴木さん!時間を稼いでください!」
鈴木がスゥと息を吸い。
「コォォォォォォォ!」
大きな声で鳴きだした。
すると周りを囲っていた魔が徐々に倒れたり揺らいだりと弱っていく。
「ほう。」
山本は大きな翼を広げて空へと逃げる。
鈴木は強力な式神だ。その格で言えば魔王にだって引けは取らない。
しかし、その式神を従えるには強大な力が必要。
いつまでもは奏が持たない。
「ここまでは届かんようだな。キエイ!」
そして翼を羽ばたかせると、羽が刃となって降り注ぐ。
「クォオウ」
少し痛そうな声を上げながらも鈴木は甲羅で受け止めて、
「コォォコオォォォォ!」
さっきとは異なる声で鳴いた。
先ほどのは拡散する音波、今度は収束させた音波だ。
範囲が狭まるが、遠距離射撃が可能となっている。
「甘い!」
山本はバサッと翼を羽ばたかせて風のバリアを作り出し声を防いだ。
「こんなものか?やはり人間は弱き者。ならば」
そう言うと山本の目にエネルギーが溜まり始めた。
どうやら勝負を着けに来たようだ。
「これで終わりだ!」
山本から放たれたビームが奏と鈴木を焼き尽くす。
否、そのはずだった。
それを鈴木の甲羅が受け止めていた。
「なに?」
その様子に山本は疑問を抱く。
先ほどのビームは簡単に防げるものではない。
鈴木が受け止めるだけの格を持っていたとしても、奏の力が耐えられずに消滅するものだと確信していたからだ。
なのに何故受け止められたのか?
「ありがとう雪丸。」
立ち上がった奏は雪丸に感謝を告げる。
いつの間にかポケットからいなくなった雪丸に。
「力が上がっている?」
式神の強度は術者の力に比例する。
立ち上がった奏は先ほどまでとは比較にならない力を見にやつしていた。
「ええ、龍穴を見つけましたから。」
「なんだと?」
そう言って山本は自分の本拠地を、その要である龍穴を見る。
そこには小さな白い塊が座っていた。
奏の式神・雪丸である。
龍穴は龍脈と呼ばれる地球のエネルギーの放出地点。
そこから膨大なエネルギーを吸い上げることが出来る場所だ。
「魔王を名乗る存在の拠点。当然、龍穴の一つあると思いました。」
神や魔が拠点として構える場所には龍穴があるのが基本。
龍穴を抑えている。それこそが強大な存在の証である。
そして、雪丸はやられたのではない。退場したのである。
退場することでこっそり龍穴を探す。そして龍穴からエネルギーを回収して、繋がっている奏に送り込む。
それが雪丸の役割りだ。
「戦いはここからです!鈴木さん!」
「コォォォウ!」
名前を呼ぶと、鈴木の四つのヒレが甲羅の中に格納された。
そして、そのヒレがあった場所からジェットが噴き出した。
「なんだと!?」
その鈴木の姿に山本も驚いた声を上げる。
「カメ飛行ではないか!」
某カメ怪獣のような飛行方法。
これは鈴木の能力の一つである。だが、この能力はエネルギーの消費が激しく、普段の奏では賄え切れない。
だからこそ龍穴の力が必要だったのだ。
龍脈のエネルギーは無限。そのエネルギーがあれば強力な式神・鈴木の力を全力で扱うことが出来る。
「おじいちゃん。あなたはこれまで風と距離で鈴木さんの攻撃を防いできました。」
「クッ!」
山本が翼を羽ばたかせて逃げようとするが、それを鈴木が追いかける。
「この距離で鈴木さんの攻撃を防げますか?」
「おのれ!」
山本が反転。目にエネルギーをため込む。
「鈴木さん!」
「コオオオオオオ!」
これまでの音波攻撃ではない。鈴木の力は波を操る。収束された波動がビームとなって山本に襲い掛かる。
それを目ビームで相殺するも、相殺しきれない。
「ぐう、あああああ!」
鈴木が放ったビームが山本を焼いた。