男と消えた母を追って
取りあえず気絶している父を布団に寝かせて、奏は現場検証を始めた。
闇に消えたのは奏の母である詩音。
それと強そうな鬼だ。
「雪丸。」
カードに願力を込めると、中から白い丸い塊、雪丸が出てくる。
「跡を追えそう?」
「チチチ………」
「そっか………」
雪丸は追跡用の式神ではない。追うのは難しそうである。
「鈴木さん。」
『私も追跡は無理だ。』
もう一枚のカードには念だけを送る。
鈴木は巨体だ。ここで召喚すれば家が壊れる。そうすれば追跡は更に難しくなるだろう。
『奏、井戸へ行け。』
「井戸?」
『呉爾公君に会うのだ。』
「呉爾公君!」
「なんなのだ!この修行場は予約制なのだ!」
井戸の中は相変わらず真っ暗で、 呉爾公君の名前を呼ぶと、修行場の真実が語られた。
この修行場は予約制だったらしい。
「わたし!わたし!」
「まさか噂の母さん助けて詐欺!?」
「奏です!」
「その手には乗らないのだ!」
どうやら詐欺だと思っているらしい。この怪獣ハムスターにどんな財産があるというのか?
「ええい!」
スマホのライトをオンにして自分の顔に向ける。
「ぎゃああああ!お化けなのだ!」
「式神がお化けを怖がるな!」
「って奏!また来たのだ?」
「違うの!協力して欲しいことがあって」
「ちょっと落ち着くのだ。中でお茶でも」
「中でお茶飲めるの!?」
『少し落ち着け奏。』
苛立って口調が荒くなる奏を鈴木が諫めた。
『呉爾公君。奏の母親がさらわれた。』
「母親?長く姿は見てなかったのに帰ってきてたのだ?」
『うむ。』
「さらわれたって、学は何をしてたのだ?」
『気絶していた。』
「だらしないのだ。」
呉爾公君のため息が井戸の中に響く。
『呉爾公君は追跡が出来るだろう。力を貸してほしい。』
「そういうことなら仕方ないのだ。奏、ボクを井戸の外に連れていくのだ。」
「下ろすのだ。」
呉爾公君を持ったまま井戸から出ると、適当な場所に呉爾公君を下ろす。
そし て 呉爾公君は匂いを嗅ぎだした。
「………これなら追えそうなのだ。」
「本当?」
「ボクに任せるのだ!」
呉爾公君はそう言うなりぼわんと体を変化させた。
「乗るのだ!」
「この車、大丈夫なの?」
呉爾公君が変化したのは車だ。
ハムスターな特徴を残した、何故かモルモットを思い起こさせる姿。
「さあ!」
「わかった。背に腹は代えられないもんね!」
覚悟を決めると、奏はハムカーの中に乗り込んだ。