ケモノの狂宴
ケモナー。それは性癖の一種である。擬人化された動物、通称ケモノに恋する癖である。
父がケモナーであることを母から証言された娘の気持ちを答えよ。
この問いに正解を出せる受験生はどれほどいるのだろう?
少なくとも言われた本人は呆然としていた。
「えっと、あの……え?」
「いや!その違うんだ奏!詩音!なんて事を言うんだ!」
フォローをしながらケモノ……詩音を諫める父。
そのフォローも耳には入ってこない娘。
「嘘だと思うなら机の引き出しを調べてみなさい。そこには」
「やめろ!仕事!仕事の資料しか入っていないから絶対に開けないように!」
「やめろ?」
「あ、いや、その娘の前でそういう話は良くないんじゃないかと………」
口調が気になったらしい妻の気迫に、夫は言葉尻が小さくなっていく。
「あなた、あとでゆっくり話をしましょうね。本を持っていた目的も含めて」
「あ、後でな。後で。」
震えながら目を反らす夫。この夫婦の夜は熱くなりそうだ。
「とにかく!そんなことは一切の関係なく!私は母さんを愛していたから結婚したということがだな!」
「そんなことはどうでも良いです。」
まるで感情がこもっていない娘の声にゾッとした様子を見せる父。
「私は元々人化の術で変化していたのよ。」
「じゃあ、お母さんは人間じゃないんですか?」
「そうなるわね。」
「わたしはどうなるんですか?」
母の正体は人間ではなかった。ならば奏は人間と人間以外とのハーフということになる。
だが奏には翼も肉球もない。
「さあ?」
「さあって………」
いい加減な返事である。
「生まれた時には翼も肉球もなかったし、普通の人間なんじゃない?」
「そうなんだ。」
少し安心した。実は翼が生えているとか言われたら、これからどう生きたらいいのかわからない。
「これで大体の事情はわかったかしら?」
「とりあえず、お母さんのことはわかりました。」
まだ受け入れられない部分もあるが、とりあえずそれは置いておこう。
「今まで何をしていて、どうして戻って」
来たのか?一番知りたいことを聞こうとした時、
「危ない!」
父の声が会話を遮り、そして飛んでいった。父が。
「え?」
「もう来たの?」
詩音が娘の前に立つ。
「迎えに来た。」
そう言ったのは父を吹き飛ばした相手。
「鬼!」
その姿は鬼、だがその迫力は前に出会った鬼とは全然違う。
「闘鬼。話し合いは無駄。それはこの七年でわかったんじゃない?」
「そうはいかん。お戻りください。」
「ふーん。」
詩音の姿が変わる。背中に翼、手には肉球と爪。
「ここで俺と戦う気か?」
「………」
「大人しくついてこれば、これ以上手出しをしないことを約束しよう。」
「はあ。わかった。」
詩音は奏を見る。
「ごめんね奏。お父さんをよろしく。」
そう言うと鬼と共に闇に消えていった。