マンサとアフィ「小説カザマンスより抜粋短編」
「それは、それは遠い昔の話じゃ。ここには我らの祖先ジョラ族という民がおった。このカザマンスの川を上った流域一帯に暮らしておった」
『うん!ボク知ってるよ!爺!』
「ここ西アフリカ、セネガルの昔話だ。西暦でいうと1800年代」
『昔だね』
「では、本を開くぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昔昔その昔。西アフリカのカザマンス地方にはジョラという部族がおった。彼らはここを植民地にしようとするフランス軍に狙われておったそうな。奴隷にして売り飛ばす為じゃ。それを恐れたジョラの民は逃げる様に密林の奥深くへと逃げ込んだ。
ある時だ。マンサとアフィというジョラ族の女子の姉妹が、その逃げた集落の西にある小高い山の上。葦で編んだ籠を背負って、ベリーの実を採りに向かったのじゃ。マンサは18、アフィは13。
二人は半日かけてこの山奥に来たんじゃ。
林の中を抜け少し開けた所に出た時じゃ。
「誰かいる」
「エッ?」
「誰かいるわ。声がする。静かに」
ーーーーーー
『後追いの兵は何人おるんだ?!』
「50人ほどであります」
『まだそんなにおるのか!どこをほっつき歩いておるのだ‼食糧も底をつく!補給隊は?!』
「更にその後方かと」
『いつまで待たせるんだ!』
「あと数日のご辛抱を」
ーーーーーーー
「ネッ、今なんて言った?」
「わかんない。聞いた事のない言の葉」
「まさか‼ フランス人? フランス軍?」
「間違いないよ」
「どうする?」
「どうするって?逃げるしかないよ」
「村の皆んなに教えないと!」
「静かにね。ゆっくりと。途中まで行ったら走るよ」
「マンサぁ、もう来ちゃうんじゃない?」
「けどなんか怒鳴ってる風だった。イライラしてた。」
マンサとアフィは中腹まで降りると、口を切った様に走り出した。
「さッ!走るよ! ベリーは全部捨てちゃいな! 籠ごと放りなッ!」
アフィは籠の中のベリーを一掴みすると、口にほうばり、残りを皆捨てた。
「アフィ!食べてる場合じゃないよ!口の周りベットリ紫色だよ!」
「これからどうする?」
「アフィ、お前は民に報せてくれ! わたしはジョラ軍に伝える!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『で、どうなったの?』
「それがじゃ、この本はここでプツリと途切れる。何ページもごっそりと抜け落ちておるのじゃ」
『えッ~』
「しかしな、この本の裏表紙にフランス人の書いたであろうジョラの系譜がある。ここを見てご覧。
王の名前の下じゃ」
『王妃・マンサ、、えッ!』
「どうやら、このどっさり抜けたページの中に何かがあった」
『知りたい!』
「この地図を見てご覧。これは今のセネガルとガンビアの地図じゃ。ここ、ここ。このカザマンス川の上流から指で下に追ってご覧。そう、南へ」
『あッ!! マンサ・コンコって村がある!』
「標高38m余りの王の丘と言われる村だ。今は300人ほどしか暮らしてはおらぬ。ベリーがたわわになっておる丘だそうだ」
『わかった!ボクが大きくなったら調べる!わかったらお爺に教えてあげる!』
「その頃まで、ワシが生きておるかのぅ。ハハッ!」
※この短編は、私の連載中小説『カザマンス』の一コマを切り取って仕上げた作品となっております。
西アフリカの部族闘争物語の一節を引用いたしました。
宜しかったら連載『カザマンス』も是非ご覧下さい♪
※イラストは、人気作『異世界ジョッキー』等を連載されている猫屋敷たまる様から頂いた御作品です。私は凄く気に入っていて、マンサ登場の場面に挿絵として掲載させて頂いております。