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1-1-3 逆行少女と無痛少女


「なんもなくねー?」

「崖に穴の一つぐらいあるのかと思ってたけど、それっぽいのはないね」


 目的の渓谷に到着してから、崖沿いに例のワームがいる痕跡を探す。

 あと数歩横に歩けば崖の向こうに真っ逆さまになるから、出来るだけ慎重に歩みを進めていく。


 ただ私が足元を見ながら歩いているのに対して、恐怖の感覚がないのかサーナはよそ見をしながら思い思いに歩いている。

 なんかこっちまでハラハラしてくる歩き方するね。


「落ちないようにね」

「任せて、心配ごむよー」


 サーナは余裕そうな表情を見せ、次の瞬間にその細い足が絡み合う。

 私は急いでサーナの体に手を伸ばし、サーナも転びそうになるのを耐え、少し恥ずかしそうにこっちを見てくる。


「こけてないからセーフっしょ?」

「ギリギリね?本当に落ちないでよ?」


 私は倒れやすい物を置く時みたいに、慎重にサーナから手を離す。


「おけー、気をうえるあ」


 そう言って、渓谷の底の方に視線を向けたサーナの口から血が垂れる。

 サーナは痛覚がないがために、血が垂れるまで自分の口を噛んだことに気付いていなかった。


「あぁあぁ、噛んじゃってるじゃん」

「やっひゃっひゃー」


 サーナを手を受け皿にして口から溢れる血を受け止めつつ、顔を上に向けて血が垂れるのを防ぐ。

 ちょうどサーナとの身長差を考慮すると、その首の角度だと口の中が見えやすい。


「そのまま、口の中見せて」

「あー」


 サーナの口の中は血で染まっていて、綺麗で白い歯が見えなくなっている。

 そして下唇のちょうど後ろのあたり、前歯で噛んだ事が分かる傷が見えてそこから血が流れている。

 血の流れる量を見て結構強めに噛んでそう。


「結構深くいってるね」

あおいえー(治してー)

「うん、ちょっと手入れるね」


 柔らかくてハリのある、扇情的なピンク色をした下唇を親指と人差し指で挟んで、親指を口の中を撫でていく。

 口の中は暖かくて、血と涎が混ぜ合わさった液体が親指につく。

 特に気にすることなく、そのまま傷口に魔力を流して傷を元に戻していく。


「よし、これで治ったかな。中の血はその辺にペッてして、口の中を濯いでね」

ああっえうっえー(分かってるってー)


 サーナは慣れっこと言わんばかりに草むらの方に移動していき、口の中の血を吐き出してから、水魔法で水を出して口の中と手を洗い流す。


 痛覚がないっていうのも大変だよね、本当に。

 いつどこかで血が流れていても、それが視覚の中に入ったり肌の上を分かりやすく流れない限りは気づかないから、仕事柄大量出血になることが多い。


 それで何度もサーナは倒れた事があるし、その度に血を逆行させてサーナの中に血を戻している。

 今回は傷だけ元に戻したから、血はサーナの中には帰っていない。


「どうー?もう大丈夫っしょ?」


 サーナが戻ってくると私に口の中を見せる。

 口の中は唇と同じ扇情的なピンク色をしていて、私は思わず唾を飲む。

 深い意味はないんだけど、この色はどうしてもドキッとしてしまう。


 傷は元に戻っていて、サーナの真っ白な歯もよく見える。


「大丈夫だね、元通り」

「いつもさんきゅ」


 そう言うとサーナは背伸びをして私と唇を重ねてくる。

 お礼にキスなんて随分と大人っぽいこと。


 私は愛らしさの余るサーナの顔の横に手を添えて、髪の流れに合わせながらゆっくりと撫でる。

 サーナはそれだけで幸せそうなとろけた表情を私に晒す。

 その無防備で私に心を許しきっている顔を見て、私も心の中で独占欲が強くなっていくのを感じる。


 ただそんなのを他所に、小刻みに地面が音を立てながら揺れ始める。


「おっ、きた?」

「分からないけど、近くにはいそうだね」

「どこだろねー」

「やっぱり地中を潜ってるみたいだから、穴を見つけて燻したりしてみる?」

「まー、とりあえずはそれでいっか」


 地中にいる以上は、どこかに潜った後があるはず。

 そこに煙を焚いて地中からどうにか誘き出したい所。


「穴かー、どこにあっかな?」

「上から見れたらワームが木を折った跡とか見れて分かりやすいんだろうけど、森の中だとそういうのも見えないから難しいね」

「むずいねー」


 サーナは少し渓谷から離れて、色々な方向に視線を向けている。


 それにしても、どうして渓谷なんだろう?

 ワームの怪異の特性が、日陰になりやすい所で生息するとかかな?

 あとは渓谷の下に川が流れてるのも見えるから、水場の近辺にいないといけないとか?


「とりあえず歩くしかないっしょー」

「そうだね、何分かかるかな」

「10分で見つかれば万々歳ー?」

「10分で見つかればね」

「よーし、がんばっかー」

「うん、頑張ろう」


 こうして私達は、地面が小さく揺れる中、ワームの形跡を探して渓谷沿いの森の中を歩き続ける。

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