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1-1-1 逆行少女と無痛少女


 「ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)」のスピンオフ作品になります。

 ものすごく不定期更新ですので、ご注意ください。


 また、この作品には薬物乱用の表現があります。

 この表現はこの作品は楽しでもらうためのエッセンスであり、これを助長する物ではありません。

 法律は守りましょう。


「はぁー、はぁー…!」

「またやってるの、それ?」


 昼下がりのある日、クスリの煙たい臭いがこもったサーナの部屋に入ってみたら、彼女は趣味の自傷行為をしていた。

 ミルクティー色の可愛らしい髪色にそぐわない赤色が、彼女の左腕には横向きの切り傷の数本から流れている。


「マーちゃんもやるー?」


 サーナが気だるそうに聞いてくる。


「前も言ったよね?そんな痛いことしたくないって」


 私は煙たい空気を換気するために、鍵を回して窓を開ける。

 外からは小鳥のさえずりと、森の新鮮な空気が部屋の中に飛び込んでくる。


「まー、"痛い"のって怖いもんね」


 サーナが腑抜けた調子で話しながら、血のついたナイフを机の上に置く。

 机の上にはクスリを吸う時に使う道具が、使ったままになっている。


「そのなんだっけ、ボ、ボ」

「ボング?マーちゃんもとうとう興味出ちゃった感じ?」

「興味出てないよ。ちゃんとそれも仕舞ってね」

「あいあーい」


 サーナがそう言うとボングとかクスリを潰す道具、クスリの入った瓶を片付け始める。

 サーナって変なことしてる癖に、どうしてこういう所はちゃんと私の言うことを聞くのか不思議だよ。


「それって気持ちよくなるためにやってるんでしょ?」

「まー、だいたいそっかな?」

「それなら私とすればよくない?」

「えー?マーちゃん、ウチがやめてって言っても続けっじゃん」

「それはサーナがかわいいのが悪い」

「あっはっはっ、なにそれー」


 サーナがケタケタと笑いながら片付けを続ける。


「マーちゃんもたまにはネコやろー?」

「気が向いたらね」

「そう言っていっつもタチじゃーん」

「サーナが悪い」

「あはっ、そっかー、ウチが悪いんかー」


 サーナが諦めたような口調でどこか楽しそうに言う。

 道具を定位置に置き終えたサーナは、ナイフの血をタオルで拭き取り、そのタオルを持って立ち上がる。


「んっ、なんか用あるんしょー?下いこー」


 サーナの言う通り来客が来てて、サーナも含めて話したい。


「他に洗濯物とかゴミある?」

「ないっぽー。いこいこー」


 サーナが私の背中をぽんぽんと軽く叩いて背中を押してくる。

 私とサーナは部屋を出て階段を下りる。


 そうだ。

 私は階段を下りたところで振り返る。


「どったー?」


 階段の1段目でサーナが止まる。

 サーナとの身長差的にこのぐらいが丁度いい。


「腕、治してあげるよ」

「おっ、いっつも悪いねー」


 サーナの左手に手を添えて、撫でるように傷口の上を撫でて私の魔力を流し込む。

 撫でた場所はまるで傷なんてなかったかのように、元通りの綺麗な肌に"戻る"。


「さんきゅー」

「血の薬も飲みなよ?」

「いぇっさー!」


 サーナが元気よく敬礼をする。

 私はサーナの頭を撫でてからリビングの扉を開け、私達の家に来ていたカミラに手を振る。


 カミラは数百年も生きている吸血鬼で、長い時間を生きているからか足を組んで座る姿は自信に満ち溢れている。

 でもどうやらカミラの体は9歳の体で成長が止まってるみたいでサーナよりも小さく、身の丈に合わない姿に子供らしい可愛さを感じる。

 カミラは私が出した紅茶を座って飲んでいて、私がリビングに入ってきたのに気づいて紅茶を受け皿の上に戻す。


「わっ、カミラっちじゃーん、どったのー?」


 サーナが血のついたタオルを洗濯カゴに入れてからリビングに入り、嬉しそうにカミラの対面に座る。


「調べて欲しいことがあってな」

「なになにー?あっ、遺跡はヤだよー?前行った遺跡で罠にかかっちゃってさー、腕も足もぐっちゃぐちゃで大変だったんだよー?」

「その件に関しては妾も伝え忘れがあった、謝罪させてくれ」

「いいっていいってー、マーちゃんが元通りに戻してくれたからねー」


 サーナがテーブルに手を置いて、椅子の後ろ足2本だけでバランスを取って座りながらカミラと話す。

 それにしても罠にかかったサーナを元に戻すのは本当に大変だった。


「それで、調べて欲しいことは?」


 私もサーナの横に座る。


「うむ、この渓谷なのだが」


 カミラが黒い瘴気を右手から溢れ出させると、次に黒い瘴気が晴れた時にはその手に地図が握られていた。

 そしてその地図を開き、1つの渓谷を指差す。


「おー、けっこー近いじゃん」

「ここから南南西だね」


 森を歩いて数時間ぐらい、明日の朝にでも出て渓谷で調べ物をして、終わったら昼食を取って夕方ぐらいには帰れるね。

 出来れば燃料面を顧みて飛行用の魔導具は使いたくないけど、サーナが何て言うか…

 あんまりお金ないんだよねぇ。


「どうする?ここから歩いていけるけど…」

「まー、歩いてっかー」

「うん、そうだね」


 よかったぁ。

 本当に燃料用の魔石を街で買うと高いんだよね。

 採りに行くにも、そのために燃料使うし。


「お金はどのくらい出るの?」

「そうさな、金貨2枚、これでどうだ?」

「金貨2枚かー」

「まぁまぁ、悪くはないよね」


 金貨2枚もあれば、本当だったら何年も食費には困らないんだけどねぇ…

 燃料代で消し飛んで行くから…


「頼めるか?」


 カミラが紅茶を手をつける。


「うん、いいよ。それで具体的に何を調べるとかあるの?」

「…うむ、どうやらその渓谷の周辺で地震が起きているらしく、おまけにワームに酷似した姿を発見したと目撃情報もある」

「地震?めずらしー」


 それよりも、「ワームに酷似した」?


「ワームとは違うの?」

「恐らくだが、それは魔物のワームではなく怪異だ。加えて、通常のワームよりも比較にならないほど巨大らしい」

「まっ、だよねー。ウチとマーちゃんのとこにくる話ってそんなもんだし」


 サーナが少し面倒くさそうにバランスを取りながら体を前後させる。


 怪異は倒したら勝手に溶けて無くなってくれるから処理が楽でいいけど、その分素材も手に入らないから倒してもそんなに美味しくない。

 でも、引き受けたからにはね。


 突然サーナが勢いよく立ち上がる。


「よしっ、今から行こっか」

「えっ、今から?」

「夜には帰ってこれるっしょ」

「ま、まぁ、多分帰れるけど…」


 お昼前だし、移動中にサンドイッチとかでも食べればいけるかな?


 でも今日は休みの気分だったから…

 いやいや、サーナがやる気あるなんて気まぐれ、上手く利用する以外ないでしょ私!


「よし、それじゃあ昼食作るから、上から私の銃も取ってきて」

「おけおけー」


 サーナがすぐにリビングから出て行く。

 私もキッチンに向かって昼食の準備を始める。


「珍しくやる気だな、彼奴」

「ね、ずっとあのくらいやる気あったら、最高の彼女なんだけどね」

「全く、お主の惚気を聞きにきたつもりではなかったのだが」


 カミラがつまらなそうに左手の爪を弄る。

 私はちょっと気になった事をカミラに尋ねる。


「それにしても、街の中にあるとは言ってもこんな外れの私達に依頼する必要あるの?」


 私の質問にカミラが少し考えると話し始める。


「この街ではお主ら1番の腕利きだからな。それにお主らは魔導士達とも繋がりがあるであろう?」


 繋がりはあるね、魔導具は魔導士から買ってるし、その燃料とかも。


「カミラも魔導士と何か関係あるの?」

「その通りだ。それにとある魔導士の人間から、お主らの様子を確認するよう頼まれていてな」

「それって誰なの?」

「今は言えない。時が来たらな、教えてやろう」

「そっか」


 私とサーナはそんな大したパーティでもないのに。

 ただ私が「時間を逆行させるだけの魔力」を持ってて、サーナが「痛覚が消失」していて、たったそれだけで迫害されて来ただけの、爪弾き者のパーティなのに。


 まぁ、昔こそ迫害されてたけど、今は迫害されてた村から逃げてこのハースネルって街に住んで、それなりの実力があるから冒険者として歓迎はされている、ありがたいことにね。


「もう要件は伝えたな。では妾はもう帰るぞ」

「サーナにお別れ言わなくていいの?」

「別に良かろう、そのような事を一々する必要もない」


 カミラは静かに立ち上がり、顔だけをこちらに向ける。


「ではな、金貨はここに置いておく。頼んだぞ」


 カミラがそう私に言うと周囲から黒い瘴気が現れ、それがカミラを隠し、次に瘴気が晴れた時にはカミラは消えていた。


 いいなぁ転移魔法、私達もそれさえ使えればお金に困らないんだけどね。


「取ってきたーって、カミラっちもう帰っちったの?」

「うん、要件は伝えたしって」

「ありゃりゃー。まっ、しゃーないか。マーちゃんのドラコちゃん、ここに置いておくよー?」


 サーナが飲みかけの紅茶と金貨2枚が置いてあるテーブルの上に私の狙撃銃を置く。


「そろそろピーナナちゃんの弾がなくなりそーなんよねー」

「明日にでも魔導士の所に買いに行く?」

「だねー」


 私も狙撃銃のメンテナンスして貰いたいし。


「よし」


 私はサンドイッチを作り終えて、それをカゴに入れてアイテムボックスに入れる。

 そろそろアイテムボックスも、手のひらサイズで私の狙撃銃が入るのが欲しいかも。

 それも明日買いに行こう。


「それじゃあ行こう、目標地点は南南西にある渓谷だね」

「れっつごー、だね」


 私はテーブルに置いてある狙撃銃を手に取り、サーナは小銃を持って一緒に家を出る。


・マチ 15歳 女性

 本作の主人公

 サーナが大好きで、サーナを守ることを第一に考えているいわゆる常識人。


 「時間を逆行させる魔力」を持ち、小さい時にそれを暴走させ物を壊してしまう事が多く、両親から家庭内暴力を受けるようになる。マチは12歳の時に家を出て隣り村に逃げると、その村に忌み子と呼ばれる少女サーナがいる事を知る事になる。マチは自分の境遇とサーナの境遇を重ね合わせ、2人で幸せを得るためにサーナを連れ出す事を決意する。


・サーナ 11歳 女性

 マチのパートナー

 マチが大好きで、ちょっと薬物乱用と自傷行為の癖が抜けてないちょっぴりダウナー系少女。


 「痛覚が消失」しており、その事で同年代の子供達から忌み嫌われ、それが忌み子として大人達にも伝わりやがて村全体から迫害される事になる。両親からも愛を受けられなくなっており、薬物乱用と自傷行為で幸福感を満たしていたサーナはある日、隣り村から来たマチという少女と出会う。しばらく人から優しさを受けてこなかったサーナは、自身に優しく語りかけてくれるマチに恋をし行動を共にすると心に誓う。


 マチとサーナは村を抜け、森に入り、何とか生活をしていた。

 しかし、やがて生活することが厳しくなり、衰弱した彼女達は最後を悟り、お互い身を寄せて眠りについた。


 次に目を覚ました2人はベッドの上で、そこには知らない1人の魔導士がいた。


 魔導士は心優しい人間で、森で倒れている2人を保護したのだ。

 しかし、魔導士も永遠に2人を養える訳ではなかった。2人が生きていくために、自身が作成した魔導具のいくつかを与え、一軒家をとある街に用意した。


 2人はその一軒家に住み、魔導具を上手く活用することで冒険者として優秀な結果を残すようになる。


 こうして2人は楽しく暮らしていると、ある日その魔導士から怪異討伐を依頼される。

 魔導士の恩を忘れることはない2人は、見事それをこなす。

 それ以降、その魔導士以外からもそのような話が舞い込むようになっていくのであった。

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