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半月の探偵  作者: 山田湖
第四夜 白薔薇のモナリザ
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実験的コーヒー

 東京都は神保町、某有名大学の通りを右に行った先に広がる古本屋街、その一角に喫茶店「セクストンブレイク」はあった。日中の陽光に赤レンガ風の店構えは良く映える。

 この大きくも小さくもない、でもどこか存在感を放つ喫茶店は年若い店主によって経営されており、スクランブルエッグや自家製ドレッシングサラダ、フレンチトーストにコーンスープ、コーヒーや紅茶の満足感たっぷりのモーニングやナポリタン、スパイスからこだわって作られたほろほろのポークヴィンダルカレーなどのランチ、そしてパンケーキにプリン、種類豊富なケーキなどが人気を呼び、コアなファンを獲得するに至っている。

 また、神保町の古本屋街にあるとあって、この喫茶店の壁一面は本棚として機能している。国内外を問わず、往年の有名作家の著書やネット小説の書籍版、また大学が近くにあるということもあり赤本や文学史、物理学、生物学などの専門書まであるため、店の中は社会人だけでなく学生の姿も目立った。


 この喫茶店の店主、小鳥遊(たかなし)はじめはそんな店内を見回しながら、コーヒーミルを回していた。豆が粉砕され粉に変わっていく感触が手のひらに伝わってくる。この瞬間はいつも気分がいい。日頃の重労働のストレス発散の良い機会だ。


 この喫茶店の売りの一つは彼の実験的なコーヒーブレンド。この実験をしているタイミング(時間はバラバラなのでその時間に狙ってくることはほぼ不可能なのだが)に来ると実験台として無料でコーヒーを飲むことが可能だ。まあ、あくまで実験なので美味しく飲めるかどうかはまちまちなのだが。


「このブレンドはどうかな? キリマンジャロにコロンビアを4:1でブレンドさせて、若干ミルの引きを弱くしたんだけど」

「うーん、紅茶党だからコーヒーの違いわかんないのー。ごめんねー」

 先ほど店に来ていた女子高生2人組にもこの実験的コーヒーを渡したところ、ありがたく飲んではくれたのだが、どうやら味の違いまでは分からないらしい。作った者の立場からしては、飲んだのだからなにかしら感想を言って欲しいものだが、正直なところコーヒーの細かな違い、それもブレンドの差別化を図るとなると日常的にコーヒーを、それも缶コーヒーなどとは違って雑味の目立たない、プロが五感を使って淹れたものを飲んでいるモニターの意見でないとまず参考にならないことが多い。

 この忙しい現代社会でそんなに悠長にコーヒーを飲む者はプロ本人かコーヒーを淹れることを極めた現在無職かホワイト企業勤務の社会人、そして喫茶店に通い詰めまくっている者しかいない。しかいない、とは言ったもののこうしてあげてみると結構いるものだ。



「この豆、余りそうだなあ。せっかく挽いたのに……」      

 少しこの豆の処分に頭を悩ませていたが、小鳥遊はこの後の来客を思い出した。記憶が正しければ、少し頼みたいことがあるとかで来るらしい。たまにはコーヒー目当てで来てくれてもいいのだが基本的にこの来客は、なにか頼みが無い限り来ることはない。非常にめんどくさいお客様だと思う。

 とりあえず、小鳥遊はこのコーヒーをこれから来るはずのめんどくさいお客様に渡すことに決める。まあ、この豆たちは小鳥遊が自分の経験や技術を総動員して挽かれているので自然と愛着がわいてしまうため、捨てずに済むように飲んでくれるものの存在は非常にありがたかった。


 若干人の入りが少なくなり、だいぶ落ち着く時間になった時、店の入り口のベルが高い音を響かせてなった。小鳥遊は入り口に目を向ける。


 どうやら例のめんどくさいお客様が来たようだ。


「やっと来たか、クソガキ」

「クソガキとはなんだ、クソガキとは」


 小鳥遊は店に入ってきためんどくさい常連こと嘉村匠に白い歯を覗かせる笑顔を向けた。



「それで、今回は何の用よ?」


「まあ、少し長くなるけど経緯から聞いてくれ」

 彼はそう言って小鳥遊のいる台所前のカウンター席に座った。それを見た小鳥遊は先ほどの実験的コーヒーを彼の前に出した。

「これは、今から4日前のことなんだけど……」



 そして、時間は4日前、彼の回想へと巻き戻る。










―作者より―

現在、現実での様々な作業と並行して、カクヨム甲子園用の小説を少しずつではありますが執筆中です。

そのため、しばらく更新頻度はローペースなものとなってしまうと思いますが、何卒宜しくお願い致します。


今回の章は人死にがでる(出たとしても過去の)ような話ではないのでゆっくり楽しめたらなと思います。彼の過去編もこの章の次の次ぐらいに出せれば出します。

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