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半月の探偵  作者: 山田湖
第四夜 白薔薇のモナリザ
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沈黙の春

「未来を見る目を失い、現実に先んずるすべを忘れた人間。その行き着く先は、自然の破壊だ」


「誰のセリフですか? それ」

「アルベルト・シュバイツァー」

 鏡はそう短く答えた。ちょうど傍付きの男に今後の計画を話し、なぜこんなことをするのかと聞かれたことへの返答だった。


「まあ、これは環境問題についての言及なんだけどさ。この至言はそれに留まらない。目の前のたった一つの現実に呑まれ、そして行動を起こすのがこの世の大部分の人間の常だ。いい例は差別だね。肌の色や人種、性別というその人間を構成する一つの現実にしか目を向けず、その人間の本質を見ようとしない」


 ちょうど火事でもあったのか、目の前の道路を何台もの消防車が通り過ぎていく。それを確認したかのようなタイミングでちょうど信号は青になった。


「そして行き着くのは人間と自然と己の破壊」


 鏡は隣を歩く傍付きの男に目を向けた。鏡の長身だとその男を見下ろす形になる。

 目的を語ったら、今度はその計画の問題点を傍付きの男は聞いてきた。それぐらい自分で考えろと言ってしまいたかったが一応答えることにした。


「この計画を実行するのにはいくつかの問題があるね」


「問題?」

「ああ。いくつかの妨害因子だ。一つは半月の探偵こと嘉村匠。彼はまだ彼女の次元までには到達していない。人格投影を使っても僕相手には役に立たないだろう。それでもある思い込みさえ捨てれば、彼は僕を凌駕する弾丸となり得る。他の警察のA級協力者だって十分脅威だし、警察の中にもいくつもの顔を持つ刑事もいる。これも脅威。なんて言ったて中には二重国籍を取得している刑事がいるからね」

「じゃあ、警察を片付ければいいんじゃ」

 そう傍付きの男は簡単に聞こえるような口調で言った。でも問題は他にもある。

「いや、まだ暗部組織や反社会勢力の動向も分からない。まあ八咫烏は間違いなく僕には向かってくるだろうし、代表的なマル暴の雑賀グループも多分だが敵になる」

「結構、あるんですね……。脅威」

「まあ、正直ね。でも反社会勢力に関しては、桜ノ宮文書を見てみないと何とも言えない」

 鏡は近づいてきた駅に目を向ける。そろそろこの話も終わらせなければならない。

「桜ノ宮文書?」

「ああ。雑賀グループの元トップが遺した禁断の書だ。警察との結びつきやら金の流れやら……。まあ日本全国の()について網羅した文書と考えていい。場所は元雑賀グループの居城の一室なんだが……。ちょっと鍵が分からないらしくて開けられないらしい。鍵の特性上ピッキングも不可」

「それだけ影響力のある物なんですか?」

「ああ。全国の勢力や警察の公安局、八咫烏も欲しがってるんじゃないかな」




 そして、鏡は傍付きの男に話をやめるよう伝えると、そのまま駅の中に消えていった。



 今なお続くガス管の交換用施設(詳しくは第3夜の毎日を自分で生きるために参照)の工事現場に目を向けて。









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