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半月の探偵  作者: 山田湖
第三夜 伝説の贋作
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夜の帳

 「寺山が犯人じゃなかっただと⁉本当か⁉」

 「はい。どうにもアリバイがあるようで……」

 「……そうかぁ、捕まえたと思ったんだがなぁ」

 大津は管理官に寺山についてのアリバイを報告に向かった。部屋に入った瞬間、管理官は犯人を逮捕したことへの確信と今後の出世を夢見たのか少し興奮気味に席を立ったのだが、大津に一言でこの2つの幻想を叩き折られた管理官は、体から芯が抜けたかのように椅子に崩れ落ちる。

 「ですが、ナイフに寺山の指紋がついていたということは、最近寺山に接触したものに限られてきます」と大津がとりなすように言う。恐らく、寺山の勤務する町工場や近隣住民、そして病院に限られてくるはずだ。

 「分かった。捜査を続行してくれ」管理官は沈みながらも先ほどより少し明るい声音で大津に言った。単純な男だと思いながら大津は一礼して外に出た。



 ……一方その頃

 「やっぱり鏡の介入の有無については分からんぞ」電話越しから少年のような声年齢を感じさせぬ声が聞こえてくる。

 彼はその協力者とも呼べる組織の一員である情報屋の男とスマホのスピーカーとマイク越しに通話していた。少し音質が落ちた男の声が鼓膜を振動させながら通り過ぎていく。

 「本当か?」

 「ああ。どんなに潜っても分からなかった。ただ鏡は切り裂きジャックの事件以来、鳴りを潜めているしな。多分休憩でもしてるんじゃないか。……お! やっぱりマンデリンとエクアドルのブレンドの方が苦みが効いて大人の味に……」と電話の向こうから最後の方は独り言か否か判断しかねる内容を話す声が聞こえてくる。

 「お前……本職喫茶店なのか? あ、てか調べて欲しいことがあるんやけどさ、寺山の通院していた…」

 そのまま言葉のキャッチボールを続けながら歩いていると前から話し声が聞こえてきたので慌ててすぐ近くの小さな会議室に入り、身を隠した。

 警視庁の中で誰かと通話するのはあまりいい顔をされない。相手によっては捜査情報を流しているのではないかと勘違いしてしまう人もいるからだ。ただ彼はあくまで鏡について聞いていただけなので捜査情報を流したわけではないし、第一その情報屋はもうそこ(最前線の情報)まで掴んでいる。若干隠れたことを後悔しながらその部屋を見回した。そこは主任刑事や管理官らが集まって会議をしていた部屋だった。


 「おい、ザザザどうザザザしたザザザ……」

 部屋に入った途端、通話にノイズが走り始めた。最初は少し気になる程度だったのだが、段々ノイズが大きくなりまともな会話ができなくなった。よく人が密集した場所だったり、電波が悪い場所、電波が混線している時に起こりやすいと聞く。

 それと同時に会議室に他の誰かが居るような気配を感じる。気になって周りを見渡すが椅子と机が整然と並んでいるのみで彼以外の来訪者は見つけられなかった。

 結果、多分この会議室は電波が悪い、中に誰かいたような気がしたのは気のせいと判断した彼は電話の向こう側の男に一声かけて電話を切り、何食わぬ顔をして外に出た。


――ただこの時、彼は気が付かなかった。この会議室は主任刑事や管理官が集まって、今後の方針を決定する部屋なのだ。つまり急に電話をしたりすることも考えて電波は繋がりやすくなっていなければならないはずなのだと。


 彼はそこまで、考えが回らなかった。







 人々を明るく照らしていた太陽は西に溶けるように沈み、暗闇が支配する夜になる。人はその暗闇にあらがうため、灯をつける。

 刑事たちにとっては憂鬱な時間の始まりだった。切り裂きジャックを名乗る犯人との戦いはまだ続いている。刑事達は寺山の周辺の人物を洗ったが今一つ有力な情報は得られていない状態だった。




 今日は新宿警察署の刑事達が見回りに行くらしく、私服に着替えて外に出た。外には刃物ように鋭い三日月が浮かんでいる。


――そうして切り裂きジャック、その最後の惨劇が巻き起こるのだった。







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