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半月の探偵  作者: 山田湖
第三夜 伝説の贋作
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叡雄たちの集結

 少し暗い部屋から男の話声がする。その男は背筋を伸ばして、その男が最も敬意を払う人物が座っている空間に向けてこう問うた。




「赤神警視総監、今回新宿で起きた殺人事件、どう対処しましょうか? 」


 そう話を切り出したのは警視副総監、荏田雄一郎だった。年は40代後半、その長身な体には警察の制服が着せられている。




「大体の概要は聞いた。犯人に関する情報は? 」と赤神が問う。その目は獲物を狙う肉食獣のように鋭かった。




「監視カメラの解析待ちです。どうも監視カメラの死角を縫って行われたようで……」と荏田が答える。




「なるほどな……。多分遺体の状態から言って犯人は愉快犯の可能性がある」


「はい。それは鑑識の方からも情報が上がっております」


「できるだけ、その犯人に次の殺人を行わせたくはない。状況によっては東京都民やその周辺にも影響が出るかもしれない」


 赤神は東京で起きた数々の殺人事件やテロ事件などを思い出す。中にはたった1件で国民を恐怖のどん底にまで陥れた殺人事件だってあったのだ。


 警察をはじめとする治安維持組織としても国民全体に影響が広まるのは避けたい。


 


赤神は1分ほど考えてこう言った。


「これより、刑事局、公安局、新宿警察署の全職務を一時停止。この事件の解決への尽力のみを職務とする。サイバー犯罪対策局、生活安全局、外国組織対策局は今出せる人員の60%をこの事件の解決に当たらせろ。もし、何か他に事件があった場合周辺の警察署が対処するものとする。捜査二課にも暴力団や政府内にこの犯人がいた場合に備えて情報をリーク。




そして、この5つの局のA級協力者を全員招集。事件解決への協力を要請しろ」




「しかし……警視総監……それは……」


「黙ってこの通りにしろ。これはこの事件解決のためだけではない。今後のためでもある」


「今後? 」


荏田はその言葉の真意を探ろうとしたが赤神は何も答えなかった。





 








 歌舞伎町で惨劇の残影が発見されてから4日後、彼は白谷から呼び出された。


 彼が呼び出された理由は言わずもがな、例の惨劇についてである。


 


 ただ、彼が呼び出された場所はいつもの刑事局専用の小さな会議室ではなく新宿警察署の大会議室だった。テーブルが棚田状に並んでいる。


 そこには刑事局の他にも生活安全局やサイバー犯罪局、外国組織対策局などが来ており、他の警察署からも刑事たちが集まっていた。




 「匠くん、こっちこっち」と白谷が手を振っている。


 ただ、白谷の顔色は優れない。同じ人によってぼろぼろに傷つけられた死体を見れば当たり前の反応かもしれない。どんなに死体に慣れているとはいっても一人の人間が受け入れられる惨劇には限りがある。


 


 「とりあえず、この資料を見ておいてくれ。詳しいことはこの会議で話されることになると思う」と彼に力のない声でいう白谷。


 そして、会議室のテーブルの一番上を指さして、「あそこに座ってくれ」とただ一言、彼に告げた。


 


 席に向かい、座ろうとした彼が見たもの、それは生活安全局、サイバー犯罪対策局、外国組織対策局――その局に協力する最高戦力であるA級協力者たちの姿だった。


 彼に気づいたA級協力者達は彼に顔を向ける。


 彼は彼らについて事前に聞いた内容を整理しながら顔と名前、そして情報を一致させた。




色堂美波(しきどうみなみ)


女性


30代前半


外国組織対策局A級協力者


四か国語を操るマルチリンガル。普段は外交官として活躍しているが元FBIという異色の経歴を持つ。海外の情勢やマフィア、犯罪者について詳しい。




機章則次(きしょうのりつぐ)


男性


20代後半


サイバー犯罪対策局A級協力者


世界的に知られたシステムエンジニア。機章が開発した計算システムはいまや世界で1億人以上の人々に使われている。


プログラミングや画像解析など機械に関することなら基本何でもできる。




大國連夜(おおくにれんや)


男性


40代前半


生活安全局A級協力者


東京都庁勤務。国民の安全を第一に考えて警察に協力し、その実績からA級協力者となる。状況判断力や瞬間的な判断力は高いが、それ以上に人柄が良い。生活安全局と一般人が衝突しそうなときには緩衝材となり、事件などが起き一般人の協力が必要となった時は優しく寄り添うように協力をお願いする姿勢から「大仏様」なんて呼ばれ方をする。




 以上がこの場にいるA級協力者たちである。


 


「あなたが半月の探偵、嘉村匠くんね」と色堂が話しかけてきた。


「君のうわさはかねがね伺っているよ」と機章。


「よろしくね」と大國。




 彼はこの3人を見た瞬間ある決定的な違いを感じ取った。


それは彼を見る目である。通常、彼はどこに行っても中学生というだけですこし不信感に光った目をされる。白谷や国本、冬木など刑事局の面子でさえそんな感じだったのだ。


 しかし、ここにいる3人は中学生としての彼ではなく、[半月の探偵]としての彼を見て、信用に足ると判断したのだ。


 偏見を取り除いて人を見る。これは人間関係や物事を解決する上で一番大事なことだ。


ただ、それは誰でもできるようで一番難しいことだと彼は思う。恐らくこの3人が警視庁の戦力として扱われるのはこういった面もあるのだろう。


 


彼はこの3人は信用に足る人物だとそう判断した。




 




 その後、「趣味は何?」「どんな食べ物が好き?」「すきな俳優さんとかいるの?」とやけに食い気味に質問してくる色堂の質問に答えていると(他の2人は苦笑いしてその様子を見ていた)




 「これより、新宿歌舞伎町女性惨殺事件についての会議を始めます」という声が会議室に響いた。全体を見回すと60~70人ほどの刑事が集まっている。


 「一同、礼!」と今回の事件を取り仕切るらしい管理官が声を張り上げる。


 





 


――殺人犯と警察の攻防がいま始まった

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