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半月の探偵  作者: 山田湖
第二夜 金の軍団
13/52

カフェにて

会議で決めた捜査方針通り、次の日には白谷と大津は事件のあった銀座のカフェ「カスフレティス」へと足を運んだ。

カフェの店内は、いかにも上流階級といった感じのマダムや紳士が占領している。Free-WiFiが使えるらしいが、携帯電話をいじるような客は少ししかおらず専らテーブルとケーキと紅茶を挟んでのコミュニケ―ションの方に花を咲かせているようだ。

「これは狙われるわけだ」と思いながら二人は入り口から程近い席に着いた。

二人が席に着いたのを確認したウェイターがメニューを小脇に抱えながら、テーブルの左斜め後ろに立ち「ご注文がお決まりでしたら、お申し付けください」と言い残しバックヤードの方へと消えていく。その動き一つ一つが清流を流れる水の如く流麗で洗練されていた。

少し暗めの緑色で装丁されたメニューを開く。やはり、上流階級御用達ということもあってか、普通の相場より幾分か高い値段が設定されている。コーヒー1杯だけでも450円、ケーキに関しては1000円以上するものもある。


「なんでコーヒー1杯だけで500円近く取られるんだ。豆にコピルアクでも使われているのか」と大津が苦々しそうにしてつぶやく。

「なんです、そのコピルアクって」

「ジャコウネコのふんから採れるコーヒー豆の事だ」

「へー」


「うわ、このケーキ2000円もするのか。クリームにバフバロのミルクでも使われているのかな」と今度は白谷が苦々しくつぶやく。

「なんだい、そのバフバロって」

「ゲームのモンスターの事です」

「へー」

ちなみにバフバロからミルクが取れるかどうかは知らない。


何も頼まないのは失礼にあたると思った2人はとりあえずコーヒーを頼み、ついでに事件の日、つまり昨日のことを聞くことにした。

「あの、すいません」

「はい、何か御用でしょうか?」とウェイターは少し面食らった様子だった。客から注文を受けることはあっても質問を受ける機会はそうそうないのかもしれない。

「昨日、この店でおかしな動きをする人を見なかったでしょうか」と白谷が質問する。

ウェイターは今度こそ本気で訝しげな顔をしながらも

「すいません。昨日の担当に聞いてきます」とバックヤードの方へと引き下がっていく。


10分後、再びバックヤードから舞い戻ってきたウェイターは

「昨日の担当だった者に聞いてみたのですが、おかしな動きをしているお客様はいなかったようです」

「そうですか。わざわざありがとうございました」と大津がお礼を言う。

ウェイターは元の調子を取り戻したのか、1礼して去って行った。


「なんで監視カメラの映像を要求しなかったのですか?」と疑問に思った白谷が聞く。

「見ての通り、このカフェは高所得者、もしくはその関係者が出入りするような店だ。大臣の奥さんだったり、日本の経済を握っている企業の社長だったりとかがゴロゴロ来店する。ほら、今入ってきた人なんかは前はテレビで活躍していた大御所の俳優さんだ。

そんな店で何か不祥事があったら影響はこのカフェだけには収まらない。だからウェイターとかこの店で働く従業員は細心の注意を払って接客している。その人たちでも不審な人物に気が付かなかったとしたら、監視カメラでも捉えられないよ」

「なるほど・・・」

「だったとしたら犯人はこの店から少し離れた場所にいたか、もしくは余程のプロかどっちかだ。後者だったら少なくとも監視カメラには十分な警戒を払うだろうね」


今度は大津が疑問を投げかける番だった。

「そもそも、なんで刑事局に捜査協力依頼が来たんだろうね?本来だったら、手口の見えない盗難事件はサイバー犯罪対策局とかと一緒に捜査するだろう」

最近は盗難事件や詐欺事件も複雑化しており、ネット上での盗難だったり、詐欺事件だったりが増えてきている。もちろん、ひったくりだったり、強盗だったりは刑事局が捜査するのだが、今回のように物理的な手段が用いられていない事例は生活安全局とサイバー犯罪対策局が捜査することが普通だ。

「ああ、なんかサイバー犯罪対策局の方はなんか大きな事件があったらしくて」

「何があったんだ?」

「警視庁のネットワークが一部ハッキングされたんですよ。かなり深くまでウイルスが侵入したみたいで。幸い捜査資料などは盗み出されておらず、公安のネットワークにも侵入する前に防御プログラムが作動したらしいですが・・・」

「なんか、不気味だな・・・」と大津が漏らす。

「ええ、手が込んでいる割に実害が無いんです。コンピュータウイルスだってトロイの木馬の強化したものがつかわれたのに深くまで入っただけで何もなかったようですし」

「ただ、厳重に守られている警視庁のネットワークに入り込むなんて、すごいクラッカーがいたものだね」大津が苦笑交じりに話す。もし、そのクラッカーが逮捕されたのならば、罪を償った後、警視庁のサイバー犯罪対策局から就職の声がかかるはずだ。


「ところで、お姉さんの調子はどうだい?」とカフェを出て、乗り物と工事現場の喧騒あふれる外に1歩踏み出した白谷に大津が聞く。

2人はそのまま並んだまま話を続ける。

「ああ、なんか医者の彼氏とうまくいっているようですよ。結婚の約束もしたみたいですし、あんなのを選ぶなんて、変わった趣味の人もいたものです」と言いながらも少し嬉しそうに顔を綻ばせる白谷。

「なんていったって、警視庁まで直接弁当を届けに来るような肝っ玉の据わった女の人だ。きっといい奥さんになるよ。旦那さんを尻に敷くタイプの」


結局のところ今日2人が得たのは、インスタントコーヒーとそこまで変わらないように思える450円のコーヒーを味わったという経験だけだった。





一方、彼の自室にて・・・。

「この手法だったら・・・。そこまでの危険を冒さずに大金をとることができる。これなら・・・これなら・・・。あとは犯人だけだ」


闇に包まれていたものが小さなされど眩い月明かりによってその正体を現し始めた。。

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