完売しました
ありがたいことに、この日の花は完売でした。なかなか見慣れないミニブーケを珍しそうに眺めているお客さまに、
「そのままコップにでも入れてテーブルに飾れば、食卓も華やかになりますよ」
とお声を掛ければ、花をいけるのが苦手だという女性たちが喜んで買って行ってくださいました。嬉しくなってどんどんミニブーケを作ったら、結果完売してしまったのです。お家に飾る為の花を先に取っておいて良かったです。
良かったねぇなんて話していると、ヘリアンサスがやってきました。
「あれ?花は?まさか完売したのか?」
目を丸くして店先に立ち尽くしています。
「うん。そのまさか。マリカのおかげだよ」
「そんなことがあるんだな・・・。母上が残念がるが、まぁ仕方ないな」
ヘリアンサスがふっと優しげに微笑みました。ヘリアンサスは今日はお仕事帰りなのか、騎士の姿をしています。騎士って、当然ながら現代日本では見ませんので、なんだかテンション上がりますね。カッコイイです。
ところで、このお店にはたくさんのお花が置いてあるわけではないのですが、かと言って完売することはまず無いそうで、閉店間際になるとヘリアンサスがやってきて全て買い取ってくれていたのだとか。だから先日もお店にいたのですね。週に一度、侯爵家ではあまり見かけない様な素朴で可憐な花を持ち帰るので、侯爵夫人も楽しみにしていたのだそうです。
少し残念そうながら優しく微笑んでいるヘリアンサスに、ミニと呼ぶには少し大きめのブーケを差し出します。
「ヘリアンサスの為につくっておいたのですよ。どうぞお受け取りくださいな。」
トリフォリウムも続きます。
「今日は完売しそうな勢いで売れていったから、先にヘリアンサスのぶんだけ作ってもらっておいたんだよ」
そうです。トリフォリウムの指示で、販売したミニブーケより少し大きめで少し豪華なブーケを作っておいたのです。
「ありがとう。なんだろう。花がこんなにも嬉しく感じるのは初めてだ。これもマリカの力なのか」
私の作ったブーケを持って笑うヘリアンサスを見ますと嬉しくなりますが、多分違うと思います。間違いなく花のチカラでしょう。花を頂いたら基本的に嬉しいに決まっているのですから。
「このブーケにも祝福がかかっているのか?」
「祝福というか、願いというか、そんな感じのものは込めました」
「へぇ。どんな?」
ヘリアンサスが、端正なお顔をキラキラな笑顔にして聞いてきます。うん、眩しい。
「ヘリアンサスとご家族の皆さまが、お健やかに過ごせます様に、と」
「え・・・」
あら?いけませんでしたか?やっぱりもっとこう、派手な感じの祝福が良かったのかしら。でも、そんなの知りませんし、そんな祝福をかけられる気もしません。
「まさに、巫女姫と言った感じだよねえ」
何故かトリフォリウムが得意気に言うと、ヘリアンサスも、
「そうだな。ああ、そうか。ありがとう、マリカ」
そう言って、大事そうにブーケを抱えたのでした。