それぞれの道
誤字報告ありがとうございます!
すっかり秋も深まり、お店の花もこっくりとした秋色の花ばかりになりました。
「マリカ、今日は随分落ち着いた色の花を着けているのだな。大人っぽくて良いではないか」
そう言うのはハイアンシス王太子殿下。
今日の私は深いオレンジのスプレーマムの花冠を被っています。花冠は相変わらずトリフォリウムのリクエストによるものですが、すっかり私のトレードマークの様になっています。
あれから、私の召喚に関わった人達はそれぞれの道へと進んで行きました。
ルピナスさまは希望通り、リコリスさまと共に砂の王国へ行くことになりました。ただ、男爵家からは勘当されてしまいました為に元男爵令嬢の平民という扱いなので、侍女としてではなく王宮の下働きとして、なのだとか。それでも、きっといつか侍女になれる様に一から頑張るのだと息巻いていました。
リコリスさまは、あれから一月後に砂の王国の王太子殿下と顔あわせをした際にあちらの王太子殿下から一目惚れをされたそうです。何でも、褐色の肌に青い瞳の精悍な青年だったとかで、リコリスさまも満更でもない様子でした。
ルピナスさまと二人、砂の王国へ行っても何とかやっていけそうな気がします。二人の幸せを願うばかりですね。
ディアンツスさまは、公爵家の騎士を解雇されたそうです。一騎士としてやり直すと言って、国境を守る砦の騎士団へと入団しました。今度こそ守りたいものをきちんと守るのだと言って、晴れ晴れと発っていきました。
そして、最後に公爵。ルピナスさまとディアンツスさまはお店まで報告に来てくれましたので知っていますが、さすがに公爵については何も知りません。当たり前ですが、公爵と交流なんてありませんからね。
ハイアンシス王太子殿下が説明してくれます。
公爵は今回の召喚には一切関わっていなかったものの、ルピナスさまが魔法を使えることを知っていたのに王宮への届け出を怠っていました。愛娘のリコリスさまからルピナスさまを引き離したくなかったのと、公爵家にひっそりと魔法使いを抱えておきたかったから、との理由からだったそうです。
それについてのお咎めは、領地の一部没収ということで落ち着いたそうです。なかなか重いですね。魔法使いはそれだけ貴重ということなのでしょう。
「それでも公爵家の広大な領地や莫大な財を思えば、痛くも痒くもないだろうがな」
秋色アジサイを弄りながら、王太子殿下はつまらなさそうに言います。
まぁ、誰かが極端に辛い思いをする様なことは嫌ですので、それで良かったのだと思います。皆さまそれぞれ、新たな道で無理なく頑張ってほしいです。
「マリカ、今度私の部屋に花をいけに来ないか?」
王太子殿下が手に持っていた秋色アジサイを私に向けて言いました。
「私はここへはたまにしか来られない。だが、私だってマリカの花を常に愛でたい。もう王宮に危険は無いのだから問題ないだろう」
「殿下にマリカの花は不要です」
トリフォリウムが冷たく言い放ちました。
「マリカだって、家と店だけでは退屈だろう。王宮まで散歩がてら花をいけに来て、たまには王宮の菓子でも食べていけば良い」
まぁ!「王宮までお散歩がてら」というのも「王宮のお菓子」というのも魅力的な響きですね。王宮付近はとっても綺麗に整備されていますからね。素敵なお店も多いですし、お散歩するのも楽しそうです。
期待を込めた目でトリフォリウムを見上げますと、小さな溜息を吐いて嫌そうなお顔をしながら私の頭に手を乗せました。
「マリカ、気持ちはわかるけど、王宮は危険なところなんだ」
そう言って私の耳に触れ、ピアスに触れます。え、そうなのですか?王宮危険なの?
「心配性だな。それだけお前の魔力を纏っていて、更にはそんなピアスまでしているマリカに何かしようなんて、誰も思わないだろう」
「魔法使いと魔力持ちはね。でもそれ以外は違うだろう」
「マリカ自身で何とかするだろう。マリカだって大人なのだし」
そう言って私の方を二人が一斉に見ます。
うん?うん、まぁ、大丈夫じゃないですか?私も大人ですし。一人でお使いくらいできますよ。
「はい。大丈夫です」
ぐっと両手の拳を握って答えますと、二人に何だか残念なものを見る様なお顔をされました。




