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リコリスさまとの面会

 リコリスさまは濃いブルーのハイネックのドレスを着て、ソファに座っていました。ハイネックのせいで、大きなお胸がより強調されていますね。羨ましいことです。


「巫女姫!来てくれたのね」


 私を見て目を瞬かせて言いました。お部屋で謹慎と聞いていましたが、やはり貴族令嬢は豪華なお部屋での謹慎なのですね。


 リコリスさまの大きな赤紫の瞳を覆う瞼は少し腫れています。きっとたくさん泣いたのでしょうね。そしてたくさん叱られたのでしょう。私に近付いてくるリコリスさまは、昨日の残酷な程の無邪気さを持ち合わせてはいません。


「ねえ巫女姫。結局、わたくしが砂の王国へ嫁ぐのは変えられないのですって。ディアンツスを騎士として連れて行くのはダメだって言われましたし、わたくし、一人であの国へ行くらしいの」


 私達をソファに座る様に促しながら、そんなことを言います。


「巫女姫、あなたはもう二度と家族に会えないって本当?手紙のやり取りさえできないって本当?」

「そうですね。私は元の世界に帰ることはできませんし、家族にも友人にも二度と会うこともできませんし、手紙のやり取りをすることも声を聞くことも叶いません」


 正直に答えますと、リコリスさまのお顔が見る見るうちに真っ青になりました。


「そう・・・。昨日、ハイアンシス兄さまとお母さまに言われましたの。わたくしは砂の王国に嫁いでも、希望すれば家族に会うこともできますし手紙のやり取りをすることだってできますけれど、巫女姫はそれら何一つできない、って。わたくしは前もって今回の婚約について知らされていて心の準備をする期間を頂いていましたけれど、巫女姫は何の前触れも無く突然この世界に連れて来られた、って」


 ・・・まぁ、確かにそうですね。ですが、例え前もって知らされていたとしても、私にこの世界へ召喚される為の心の準備ができたかは謎ですけれど。


「わたくし、巫女姫さえ召喚できれば全てが解決すると思っていましたの。そのことしか見えていませんでした」


 うん。一昨日のリコリスさまとの会話からも充分にそのことは伝わっていました。遠い異国に行きたくない気持ちと、好きな人と離れたくない気持ちでいっぱいの様でしたもの。同年代の女子としてその気持ちはもちろん理解できますが、だからと言って私を召喚して身代わりにするのは違うかな?と思うのです。それに、私が身代わりになったところでそれはやっぱり無意味なことで、リコリスさまが嫁いでこそ意味があることなのですし。


「・・・ごめんなさい。あなたから家族を奪ってしまって・・・。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


 俯いて肩を震わせながらリコリスさまが言いました。ぽたぽたと涙が落ちてドレスにシミをつくっていきます。ああ、そんな、泣かないでください。美女に泣かれては困ってしまいます。

 私は慌ててリコリスさまの前に膝をついてその両手を握りしめました。身分の高い方に勝手に触れて良いのかわかりませんが、こんなに泣いている女の子を放っておける筈等ありません。


「リコリスさま・・」


 それ以上言葉が続きませんでした。自分を責めて泣いている女の子に、その原因となっている私がどんな言葉をかけてあげれば良いのでしょうか。うっかりすると、私はリコリスさまを責めてしまうかも知れません。リコリスさまの気持ちを理解することも共感することもできますし、こんなにも自らを責めている人を更に追い込む様なことはしたくありません。

 泣いている女の子を放っておけないと思ったばかりですのに、優しい言葉ひとつかけられないなんて情けない限りです。


 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、リコリスさまから離れてブーケを手に取りました。そしてそれをリコリスさまに渡します。


「リコリスさまのお幸せを願ってつくりました。お受け取りくださいますか?」


 リコリスさまは涙に濡れた瞳を大きく見開いて花と私とを交互に見て言いました。


「わたくしに?良いの?」

「もちろんです」


 ブーケを抱えて目元を真っ赤にしながらも嬉しそうに笑うリコリスさまを見て、私も自然に微笑みました。


「リコリスさま。リコリスさまさえよろしければ、私、毎週リコリスさまにブーケをおつくりします。いえ、つくらせては頂けませんか?」

「本当に?わたくしに、毎週巫女姫のお花を?嬉しい!」


 そう。きっとこれで良いのです。今、私を召喚したことを後悔して自身を責めているリコリスさまは、ある意味私と同じ傷を背負っているのではないでしょうか。それなら、一緒に前を向いていける様にお互いにできることをしたいと思うのです。

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