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帰宅

 気持ちも新たに、新しく運んで頂いたお茶を飲みます。うん。王宮のお茶というのは美味しいものですね。茶葉が違うのか淹れ方が違うのか、はたまたその両方か、普段私が淹れるものよりずっと美味しいです。


 あれから再度話し合い、私は家に戻れることとなりました。愛妾にはなりませんし、巫女姫であることを公表することもありません。今まで通りトリフォリウムの家で暮らし、花屋で働くことで落ち着きました。


 明日もどうせ登城するのだからと、もう一泊していくことを勧められましたが、一刻も早く家に帰って寛ぎたかった為辞退しました。


「マリカ、明日のドレスも用意し、」

「断る」


 ハイアンシス王太子殿下がにやにや笑いながらドレスについて言いかけましたが、私がお断りの返事をする前にトリフォリウムが殿下の言葉を遮って断っていました。また殿下の色を纏わされては堪りません。王宮の方々にあらぬ誤解をされてしまいますからね。



 王宮の馬車に送って頂いて家に着きますと、門の前にサバティエニ家の馬車が停まっていました。馭者が馬車の扉を開けると、カメリアさまとピオニーちゃんが飛び出してきました。


「マリカちゃん、ごめんなさいね。家のものがご迷惑をおかけして・・・。」

「マリカちゃん!良かった!本当に良かった!」


 二人とも、ぽろぽろと涙を零しながら言いました。傍らには侍女の方も泣きながら立っています。


「マリカさま・・・。申し訳ございませんでした。本当に申し訳ございませんでした。私・・・私・・・」


 ぎゅっと拳を握りしめて、悔しそうに俯いて涙を流しています。ああ、そんな、もう良いですのに。侍女の方はピオニーちゃんを人質に取られて脅されていたそうです。大切な主人のお孫さんを守る為にしたことです。仕方ないですよね。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしまして申し訳ございません。私はこの通り大丈夫ですから」


 皆さまに声を掛けますと、ピオニーちゃんが抱き着いてきました。昨日会ったばかりですのに、随分懐かしく感じてしまいます。そう、つい昨日の出来事なのですよね。


 せっかく待ってくれていましたのでお家へご案内しようとしましたら、カメリアさまがそれを制して言います。


「今日はマリカちゃんの無事を確かめたかっただけですので結構ですわ。後日、改めて謝罪にお伺いさせて頂きたく存じます。魔法使いさま、よろしいでしょうか?」

「そうして頂けますと助かります」


 涙を拭いながら言うカメリアさまに、トリフォリウムが無表情ながらも優しい声色で言いました。

 ピオニーちゃんは離れ難い様でしばらく私にくっついていましたが、侍女の方に引き剥がされて渋々帰って行きました。また後日、色々お話ししなければなりませんね。


 サバティエニ家の馬車を見送って、漸く家に入ることができました。結局、シルバーグレーのドレスを着たまま帰ってきてしまいました。何故なら、昨晩王宮へ向かったときの私はヒラヒラふわふわのネグリジェだったから。さすがにネグリジェで帰宅する訳にはいきませんので、着せて頂いたドレスのまま帰ってきたという訳です。

 コルセット等はしていませんが、いつものワンピースに着替えますととてつもない解放感に満たされます。やっぱりこうでなくちゃ。ほうっと大きく息を吐いて、ベッドに倒れ込みました。

 ああ、いつものベッドです。昨日は何だかんだであまり眠れませんでした。王宮のベッドはそれはそれは柔らかく快適でしたが、やっぱり家のベッドが一番落ち着きますね。安心感からか気が緩んだ様で、ついうつらうつらとしてしまいます。


 それからしばらくしてトリフォリウムが呼びに来るまですっかり熟睡してしまっていました。

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