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話し合い

 今はハイアンシス王太子殿下のお部屋で、トリフォリウムとヘリアンサスと一緒にお茶を楽しんでいます。王妃陛下の言う「後のこと」を話し合うのだそうです。


「マリカ、お前は今後どうしたい?」


 王太子殿下がにっこり笑って訊ねます

 どうしたい、とは?


「お前が望むなら、王宮にお前の居場所をつくることもできる。例えば、私の愛妾とかな」


 はてなマークを飛ばしていたであろう私に、王太子殿下が恐ろしい程の美貌を柔らかくして言いました。

 ・・・あいしょう、あいしょう・・・ん?愛妾??え、なんで?どうしてそんな展開に?

 

「ふざけるな。何故そうなる」

「お前、昨日から言葉違いが素に戻っているぞ?」


 トリフォリウムがいつになく刺々しく言いますと、王太子殿下は楽しそうに言いました。


「父上も母上も歓迎する、と言っている」

「謹んでご辞退申し上げます」 

「即答か。そんなに堂々と私の色を纏っておきながら冷たいものだな」


 王太子殿下は一瞬目を見開いた後、大きな声で笑いました。そんなに面白かったですか?と言いますか、「私の色を纏っておきながら」って何ですか?

 何のことかわからずきょとんとしている私に、ヘリアンサスが説明してくれます。


「そのドレスは殿下の髪の色だろう。マリカは今日、殿下の色を纏って両陛下の御前に出たんだ。マリカが殿下の申し出を受けたと思われても仕方ない」


「えええっ!?何ですかそれ?そんなこと聞いていませんよ?」


 そんなこと初耳ですよ?と言いますか、このドレスの色は王太子殿下の髪色だったのですね。ナルホド、そう言われてみますと殿下の銀髪と良く似ています。

 そういえば、アネモネさまもいつもヘリアンサスの髪色に似たドレスを纏って嬉しそうにしていましたのに。どうして気付かなかったのかしら。私のバカ・・・。

 色を纏うって、ロマンチックと言えばロマンチックなのかも知れませんが、今の私には何とも居心地の悪いものでしかありません。思わずじっとりとした目で王太子殿下を見つめてしまいます。


「まぁそう怒るな。微妙に傷付くではないか」


 ゆったりと長い足を組みながらそんなことを言っています。そうは言ってもまだくすくす笑っていて、とても傷付いている様には見えません。まぁこれだけの美貌をお持ちな訳ですからね、きっと誰からも断られたこと等無いのでしょう。断られたことが珍しくて、つい楽しくなっているのかも知れません。


「それはともかく。王家としては巫女姫であるマリカを囲い込みたいのはやまやまだが、マリカにその意思がないのなら仕方あるまい」


 そう言って未だ笑いながら私を見下ろす王太子殿下の目は、いつになく優しいものでした。

 王家の意思ならば、最悪私に命じることだってできる筈ですのにそれをしない辺り、この方もやっぱり優しいのです。


「だが残念だ。私とお前の子なら、さぞ美しい子が生まれたであろうにな」


 ・・・優しいのです。優しいのですよ?ちょっと何かがズレているだけで。少しだけ遠い目になってしまっていますと、突如殿下の目の前のカップがぱりんと割れました。


 え?ぱりん?


「何言ってるの?馬鹿なの?」


 トリフォリウムが凍てつく様な冷たい目をして言いました。これ、トリフォリウムが魔法を使ったのでしょうか・・・。王太子殿下は美しいお顔を引きつらせて、目の前の割れたカップを見ています。


「トリフォリウム、落ち着け。マリカもそんな目で殿下を見てやるな」


 一人平静を保っているらしいヘリアンサスが面倒臭そうに言いました。

 え、私、どんな目で見ていました?ちょっと遠い目をしてしまっただけですよ?


「だから!例えば、の話だと言っているだろう」


 気を取り直した王太子殿下はそう言って、割れたカップを片付ける為にメイドを呼びました。

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