王妃陛下
「巫女姫の希望を聞こう。あなたはかの者等にどの様な罰を与えたい?」
国王陛下がそんな物騒なことを聞いて来ました。
どの様な罰を与えたい?
いえいえ、そんなこと望む訳ないでしょう。確かに、勝手に、しかも「そんなことで?」と思える様な理由で召喚されたことには思うところはありますが、幸い、周囲の優しい皆さまのおかげで私は楽しく暮らせています。
それに、何度も言いますがリコリスさまの気持ちもわからなくはないのです。リコリスさまを慕うが故に手を貸した二人の気持ちも。
「罰は望みません。ただ可能でしたら、近々お三方とお会いさせて頂きたく存じます」
私がそう言いますと、国王陛下は一瞬目を見開きましたが、すぐに元に戻って言いました。
「そうか。なるほど、聞いていた通りだな。正に巫女姫だ」
何が「正に」なのかはわかりませんが、自分が理由で他人が重い罰を負うとか、そんなの耐えられませんからね。日本人的には最も苦手とすることの一つなのではないでしょうか。偽善者と思われようと何と思われようと、多少の関りを持った人が自分のせいで苦しい思いをするのは嫌です。
「わかった。明日にでも三人と会う時を設けよう。それで良いか」
「はい。ありがとうございます」
リコリスさまはともかく他の方々とは殆どお話もできませんでした。まぁ、ディアンツスさまに対しては私が話すのを拒否したのですが・・・。リコリスさまも今は考えが変わっているかも知れませんし、改めて皆さまとじっくりお話をしたいと思ったのです。
私は国王陛下に御礼の意を込めてカーテシーをしますと、それまで一言も発することのなかった王妃陛下がその麗しいお口を開きました。
「巫女姫。そのドレス、とてもよく似合っていますよ」
「ありがとうございます」
唐突にドレスを褒められました。褒めて頂きましたので素直に御礼を言いますと、王太子殿下とよく似た、それはそれは美しいお顔で微笑んでくれました。思わずうっとりと見惚れてしまいます。
「後のことはあなた達でよく話し合いなさいな。私達に異存はありませんから」
王太子殿下に向かって、今度は悪戯っぽく笑って言いました。まぁ!そんなお顔もおできになるのですね。
「ありがとうございます。母上」
王太子殿下はそう言った後、私の方を見てにっこりと微笑みました。何でしょう。何だか背筋が冷んやりとしましたが、気のせいですよね?
それにしましても、まだ何か話し合うことがあるのですね。早く終えてお家に帰ってのんびりしたいのですが、あと少しの辛抱でしょうか。心してかかりましょう。
何だか色々な意味で重苦しい時間でしたが、何とか謁見を終えることができたのではないでしょうか。
私はほっとひと安心して、入室したときと同じ様に王太子殿下に手を引かれて謁見の間を後にしたのでした。




