謁見の間へ
トリフォリウムは昨日と同じ、装飾過多ともとれる華やかな紺色のローブを羽織っていました。珍しく髪を後ろに撫でつけていて、お顔がすっきりと出ています。すっきり出ているからこそ、不機嫌そうな表情が丸わかりです。
「他のドレス無いの?今すぐ着替えさせて」
トリフォリウムが侍女の方に詰め寄ります。
「む、無理でございます・・・」
「こちらをお召しになる様にとのご指示でしたので・・・」
ちっ、とトリフォリウムが舌打ちしました。え、舌打ち?温厚なトリフォリウムが?意外な一面にびっくりです。
侍女の方々が何だか縮こまってしまいましたので、空気を変えるべくトリフォリウムに話しかけます。
「今日は髪を上げているのですね」
そう言って、髪に手を伸ばして少し撫でてみますと、「ああ」とトリフォリウムは少し恥ずかしそうに笑います。
「王宮の侍女に無理やり整えられたんだ。別にいつものままで良かったのに」
「たまには良いのではないですか?大人っぽく見えます」
「大人なんだけどね」
確かに。失礼なことを言ってしまいましたかしら。とりあえずは機嫌が直ったらしくくすくすと笑うトリフォリウムにつられて、私も笑います。
「マリカも綺麗だよ。いつも綺麗だけど」
さらっと褒めてくれました。何でしょう、ちょっと照れますね。
「ありがとうございます。でも嫌そうなお顔してましたよ?」
「あー・・・」
苦笑しながら私の頭にぽんと手を置いて、そのまま撫でてくれました。あ、これ、笑ってごまかす感じですね。少しだけ気になりますが、言いたくないなら仕方ないです。
「マリカ、準備できたか?」
ヘリアンサスもやって来ました。ヘリアンサスも、昨日と同様装飾過多な騎士服を纏っています。そして私を見て一瞬眉を顰めました。
また?何なのですか?デジャヴ?訝し気な表情でヘリアンサスを見ますと、さっと目を逸らされました。
「あー、その、あれだ。良く似合ってる」
何ですか、その投げやりな褒め方。とは言え、ヘリアンサスは絶世の美女のアネモネさまをいつも見ていますからね。着飾った私への反応なんてこんなものでしょう。
そのままヘリアンサスの案内でお部屋を出ました。向かう先は謁見の間だそうです。
ひと際豪華な扉の前で止まりました。扉の両脇には白い騎士服を纏った近衛騎士が控えています。急に空気が重々しくなりましたね。緊張します。緊張が伝わったのか、トリフォリウムが私を落ち着かせる様に背中を撫でてくれました。どうしていつもわかるのでしょうね。いつでも私の機微を感じ取ってくれます。
見上げますと、柔らかく微笑んでくれました。うん。大丈夫そう。
広い広いお部屋に入ると、奥の数段高いところに国王陛下と王妃陛下が座っていました。傍らにはハイアンシス殿下ともう一人王子らしき青年が立っています。
「こちらへ」
国王陛下が言いました。
と言うか、先にVIPがいたのですね。てっきり私達が先に入って、「国王陛下のおなーりー」とか言われて膝を折ってお迎えするのだと思っていましたのに。私の心の準備が台無しです。
「マリカ、手を」
いつの間にかハイアンシス殿下が側に来ていて、私の手を取って両陛下の前へ歩き出しました。どうするのが正しいのかわかりませんので従います。
「父上、こちらがマリカ・ツバキダニ嬢。花によって祝福を授ける、祝福の巫女姫です」




