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リコリスさまの主張

「「「は?」」」


 その場にいた、私とリコリスさまとディアンツスさま以外の全員が言いました。そうですよね。びっくりしますよね。特に、公爵と近衛騎士の皆さまは何も知らないのですから尚更です。


「リコリス、何を言っているんだ?」

「だから、彼女はわたくしが召喚した巫女姫なのです。わたくしの元へ連れ戻しただけですから、何も問題ありませんわ」


 意味がわからない、という風に訊ねる公爵に対し、リコリスさまは大きなお胸を張って得意げに答えました。


「リコリス、お前は魔法を使えないだろう。そんな嘘を言うものではないよ」

「あら、お父さま。ルピナスが魔法を使えるのはご存じでしょう?」


 最後の希望とばかりに言い縋る公爵を、リコリスさまはばっさりと切り捨てました。公爵は項垂れて膝を付きます。

 それを横目でちらりと見て、王太子殿下が言いました。


「その様な者は登録されていないと思うが。誰だ?」

「わたくしの侍女ですわ。ほんの少しだけ魔法が使えますの。王宮へ届ける程でもありませんから、そのままにしておりましたのよ」


 それって、法的に大丈夫なのでしょうか?魔法使いと高い魔力持ちは国に登録されていると聞きましたが。


「だがその者だけでは召喚術は行えまい。どうしたのだ?」

「わたくしとディアンツスの魔力を提供しましたの。おかげでわたくし達三人とも魔力を失ってしまいましたが、無事に巫女姫を召喚することはできましたわ!すごいでしょう?」


 またも大きなお胸を張って自信満々に答えるリコリスさま。ああもう、どうしてこうもお花畑なのかしら。見ていてハラハラします。


「・・・そうか。で、お前は何故巫女姫を召喚した?今はほぼ禁術とされていることを知らない訳ではあるまい」


 美しいお顔に怒りを滲ませながら王太子殿下が問いかけます。美しい方が怒ると半端でなく怖いのですね。


「それはもちろん、わたくしの変わりに砂の王国へ嫁いで頂く為ですわ!」


 当事者を除く全員が固まりました。ですよね。私もびっくりしましたもの。そんな理由?って。


 トリフォリウムは私を抱きしめている手を更にきつくします。少しだけ苦しいですが、心地良いのでそのままにしておくことにします。


「わたくし、砂の王国へは行きたくありませんの。だから巫女姫に行って頂こうと思いましたのよ。巫女姫なら、あちらも文句はありませんでしょう?いいえ、むしろわたくしが行くよりずっと喜ばれる筈ですわ!」


 褒めて褒めて、と言う様にキラキラした瞳で王太子殿下に説明しています。

 王太子殿下は呆れと怒りが綯交ぜになった様なお顔をしてそれを聞いていましたが、やがて右手を静かに上げて、そのまま振り下ろしたかと思うとリコリスさまの頰を叩きました。


「え?」


 リコリスさまは叩かれた体勢のまましばらく呆然としていましたが、やがて左の頬を抑えて涙目でハイアンシス殿下を見上げました。


「ハイアンシス兄さま、どうして?」


 心の底から訳がわからない、という表情をして言いました。


「リコリス、お前には王家に連なる者としての誇りは無いのか。私は情けない」


 王太子殿下は大きな溜息を吐きながら言いました。

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