リコリス・ラジアータ公爵令嬢
目が覚めると、そこは知らないお部屋でした。見たこともない程の豪華なお部屋。私は天蓋付きの大きな大きなベッドに寝かされていた様です。
「お姫さまのお部屋みたい・・・」
どうして私はここにいるのかしら。カメリアさまの侍女がやって来て、ピオニーちゃんに何かあったらしいと言われて敷地から出てしまったのだっけ。そこで殴られたか何かで意識を失って・・・。
って、これはよろしくない。非常によろしくない事態です。私、攫われたのですよね?これ、私を召喚した犯人に攫われた可能性大ではないですか?
ベッドから出て、お部屋内を歩き回ります。大きなソファセットとテーブル、それに書き物机があるだけです。調度品や雰囲気は品よく豪華ながらも、シンプルなお部屋。ドアが二つありますが、どちらも鍵がかかっています。バルコニーへと続く大きな窓も施錠されたまま。ガラスを割れば脱出はできそうですが、三階か四階くらいの高さはあります。よくある、カーテンを繋いでそれを伝って階下に降りる、というのならできそうかしら?幸い、この豪華なお部屋にはドレープカーテンがたくさん掛かっています。外れるかしら?と思いながらカーテンを引っ張ります。
すると、ドアがガチャリと空いて、晴れやかな表情の艶やかな美女が入室してきました。
「探しましたわよ、巫女姫!ようやく見つけましたわ!」
・・・は?
「そう!あなたよ、あなた!わたくしが喚んだのは、間違いなくあなたですわ!」
はて。どなたでしょう?ですが、この声、確かに聞き覚えがあります。どこだっけ・・・?
「わからない?『助けて』って言ったら、あなた、答えてくださったでしょう?」
え、まさか。恐る恐る訊ねます。
「まさか、あなたが私を喚んだのですか・・・?」
「そうよ!わたくしが、あなたを召喚したリコリス・ラジアータよ!」
大きなお胸を更に張って、艶やかな美女は答えました。
予想外のことに私は驚きを隠せず、どうしたものかと目を泳がせていました。だって、良からぬことを考えて私を召喚したであろう人がこんなにも年若いご令嬢だったなんて思いもしませんでした。年の頃は十八、九。燃える様な赤い髪に赤紫の瞳、大きなお胸の勝気そうな艶やかな美女ですが、その言動はどことなく幼く感じます。
「あなたをずっと捜していましたの。異世界の巫女姫をやっと見つけて召喚したというのに、わたくしの元に現れないなんて。しかもあなたを召喚したことで、わたくし、魔力を全て無くしてしまいましたの。召喚術を行ってくれた侍女のルピナスも、護衛のディアンツスも魔力を失ってしまいましたわ。だからあなたを捜し出すことができませんでしたの」
困ったわぁ、とでも言う様に右の頬に右手をあてて、ほうっと溜息を吐いて言いました。
「魔力を失ってしまったから、あなたのことを何も感じることができなくなってしまって・・・。本来なら、術者であるルピナスにも、召喚に際し魔力を提供したわたくしにもディアンツスにも、あなたのことははっきりわかる筈でしたのに」
ナルホド。つまり、召喚をした術者はルピナスさんという侍女の方で、一人では魔力が足りないからそれを補う為にリコリスさまと護衛騎士が魔力を提供した、ということですね。そして、そのせいで三人は魔力を失ってしまったと。で、魔力が無いから私のことを見つけることもできなかったと、そういうことですね?
ああ、魔力持ちが複数人協力して、というトリフォリウムの予想は当たっていましたね。
「わたくし、異世界であなたを見つけることができたとき、本当に嬉しかったのですよ!ああ、巫女姫を見つけた、この巫女姫がわたくしの望みを叶えてくださる、と」
夢見る様にうっとりとしたお顔で言いました。
「砂の王国の王太子の下へ、わたくしの代わりに嫁いでくださいな」




