その後の調査
ふと気付けば、この世界に来て半年以上経っていました。この世界に来た頃は春で、春の陽気な花たちが明るく咲き誇っていました。今はすっかり秋といった風情です。この世界は春と冬が長く、夏と秋が短い様です。日本の秋の様な詫びた風情ではないのですが、木々が色付いたりその葉が落ちたりともの哀しいのは同じな様です。
「これも良いですね」
紅葉して紅くなったドウダンツツジの枝を持って私が言います。紅葉したヒペリカムもありますね。
今はトリフォリウムと二人、いつもの森へ来ています。紅葉した枝ものがあるとぐっと秋らしいアレンジに仕上がりますので取りに来ました次第です。
「少し休憩にしよう」
そう言って、トリフォリウムが温かいお茶を淹れてくれます。この世界にサーモマグはありませんが、魔法でお湯を沸かしてくれるのでありがたいです。地面に敷いた更紗の様な敷布の上に座ってお茶を頂きます。
「マリカを召喚した犯人についてなんだけど」
唐突にトリフォリウムが口を開きました。いつになく真面目なお顔をしています。
私を召喚した犯人。ずっと気にはなっていましたものの、特に進展が無いのか、何も知らされることはありませんでした。私から聞いて良いのかもわからないので何も聞けないまま、今に至ります。
「魔法の痕跡を辿るのは、結局無理だったんだ。消された痕跡を復元することはできても、どこにも誰にも辿れなかった。僕等魔法使いは、魔力や魔法の痕跡からそれを使った本人まで辿り着くことは容易にできる。でも今回に限ってはそれができない。マリカを召喚した犯人の魔力が、国内のどこにも見当たらなかったんだ」
痛ましいものを見る様な目で私を見て、そっと頬を撫でます。
「国外へ逃亡してしまったのでしょうか?」
「その可能性もなくはないけど、どうだろうね」
頬を撫でていた手を髪にずらし私の耳に髪を掛けて、そのまま髪を梳かしながら続けます。
「魔力を失ったという可能性もある。力の足りないものが無理に召喚術を行った為、代償として持っている魔力全てを失った。そう考えるのが一番可能性が高いかな」
ナルホド。故に、魔力を辿ることができないと。では、魔力を失った人を捜せば良いのでは?そう聞いてみます。
「魔法使いと高い魔力持ちは国に登録されている。有事の際、国に貢献する為にね。この数カ月、高い魔力持ちには会って確認したのだけれど、誰も魔力を失ってはいなかった。魔法使いは基本的に王宮に召し抱えられるから、そんな変化があったらすぐにわかるし」
トリフォリウムはそう言いながら、はあ、と大きな溜息を吐きました。
「だから、登録されるに至らない魔力持ちが複数人力を合わせてマリカを召喚したんじゃないかと思うんだ。でも、当然登録もされていないから見つけることもできない」
いつもにこやかなトリフォリウムが珍しく萎れた様子で言いました。そうですね。八方塞がりな感じですね。
私は手に持っていたヒペリカムを短く切ってリボンで纏めました。小さなコサージュの完成です。ほわっと温かくなったコサージュには、私の願いが込められています。それをトリフォリウムのローブの胸ポケットに挿しました。
「私の為にありがとうございます。きっと大丈夫です」
言いながら、自分でも何が大丈夫なのかわからずにいますがきっと大丈夫です。大丈夫だと思っていれば、大丈夫になっていくはずです。
目をまん丸に見開いて私を見た後、ぽんと私の頭の上に手を置きました。その手が後頭部に滑り下りたと思いましたら、そのままぐいと引き寄せられました。あら?抱きしめられてる?
びっくりしてあたふたしてしまいましたが、放してくれる気配はありません。ぎゅうっと抱きしめて、後頭部を撫でています。恥ずかしいやらびっくりするやらで混乱していた私ですが、その手があまりに優しいのでしばらくするとすっかり安心していたのでした。




