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ユーチャリスリリーのブーケ

「マリカ、この白い花を使ってくれ。小さくて可憐でまるでお前の様ではないか」


 ユーチャリスリリーを手におかしなことをいっているのは、ハイアンシス王太子殿下です。以前ブーケをお渡しして以来、定期的に花のオーダーをしてくれます。基本的には登城するトリフォリウムに持って行ってもらうのですが、時々こうしてお店を訪れて騒がしくしていきます。

 ユーチャリスリリーは「リリー」とついていますが、正確にはヒガンバナの仲間です。ウエディングブーケに人気の高い花でもあります。


「花はお持ちするのでわざわざお出でくださらなくても大丈夫です、といつも申していますでしょうに」


 心底嫌そうにお顔をしかめてトリフォリウムが言います。同級生だからって、そんな態度で良いのでしょうか?いつものことながら心配になります。


「マリカに直接花をもらう方がより癒される気がするのだ。それに、いつまでも巫女姫であるマリカを独り占めできると思うなよ?」

「いつまでもも何も、マリカが巫女姫であることを公表する日は来ない筈ですが」


 それに関しましては、私もトリフォリウムに同意します。巫女姫召喚は禁術の様な扱いである以上、私が召喚されたことは伏せられるべきです。


「・・・おい。壁をつくるのはやめろ」


 王太子殿下が手に持ったユーチャリスリリーを私に手渡そうとしたところで、その手が私に届くことはありませんでした。何か、見えない壁の様なものに遮られたからです。その見えない壁はトリフォリウムが魔法によって出したものの様でした。殿下はガラスを叩いている様な仕草をしています。


「わかったから、これを消してくれ。マリカに花も渡せないだろう」


 見えない壁に遮られ止まっていた殿下の手が、私に向かって伸びてきました。壁が消えた様です。


「巫女姫であることを公表するか否かは、犯人が捕まって解決した後に改めて考えれば良いことだ」


 私にユーチャリスリリーを手渡しながら、にっこりと美しく笑います。恐ろしい程の美貌は今日も健在ですが、少しばかり慣れてきました。本当に美しい人は、男女や人種といった枠組み等さらりと超えていってしまうのだと認識させられます。かつて、日本の超美人女優を見て、美し過ぎてもはや男なのか女なのか何人なのかわからない、と思ったことを思い出します。


「どうぞ。ユーチャリスリリーのブーケです」


 ユーチャリスリリーに淡いピーチカラーのバラ、ビバーナムにかすみ草を添えたウエディングブーケの様な可憐なブーケが出来上がりました。形はこんもりと丸い形です。


「良いな。これでしばらくは疲れも吹き飛ぶ。この花を見る度お前を思い出して癒されることとしよう」

「ふざけてないで早く帰れ」


 トリフォリウムの口調が砕けました。それを聞いた王太子殿下は、一瞬目を丸くしました後に嬉しそうに笑って言いました。


「久しぶりだな。そんな風に話すのは」

「失礼致しました。お忘れください。そして早急にお帰りください」


 丁寧な口調に戻ったトリフォリウムに対し、王太子殿下は心底楽しそうに声を上げて笑いながら後ろ手に手を振って帰っていきました。

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