不安なこと
「マリカ?どうかした?大丈夫?」
はっと我に返ると、三人が心配そうに私の顔を覗き込んでいました。あら、私、考え込んでしまっていたのですね。失礼しました。
「はい。大丈夫です」
答えると、ヘリアンサスが少し怒った様なお顔で聞いてきます。
「アネモネが不安にさせる様な事を言って済まない。ああは言ったが何も気にする必要はないからな」
「申し訳ございません。何だか楽しくなってしまって、調子に乗り過ぎました」
眉を下げて、しゅんとしてアネモネさまが言いました。そんなお顔も美しい。
「いえ、あの、不安と言いますか・・・。そうなりますと、トリフォリウムが結婚する日もきっと近いですよね?それまでに独立できる様にきちんとしなければ、と考えていたのです」
「「「は?」」」
三人、ハモりました。え?私、何か変な事言いましたか?しばらく沈黙が続き、気まずい空気が流れます。
「そう来たか」
「これは手強いですわね」
「まぁそうだよねぇ」
何故だか納得した様に、三人でうんうんと言い合いました。私だけ理解が追い付いていないみたいですが、どういう事でしょう。
「僕は貴族のご令嬢たちから結婚相手を選ぶつもりはないから、マリカはそんな心配しなくても良いよ。それに、まだマリカを一人になんてさせられない」
私を安心させる様に髪を梳きながら言いました。顔の横の髪を耳にかけ、その手を頬に滑らせます。トリフォリウムが頬に触れるのは珍しいですね。
「でも、いずれは誰かと結婚しますよね。その時に私がいてはお邪魔になってしまいます。やっぱり急いで独立できる様にしないと」
「だから、前にも言ったでしょ?こどもは変な心配しなくても良いって」
頬を撫でていた手が少し上に上げられ、それにつられて私の顔が上向きます。トリフォリウムは優し気に瞳を細めて私を見ていました。その深緑の瞳をじっと見つめていると、焦っていた気持ちが不思議と落ち着いてきました。
「ね」
「はい。今は甘えさせて頂きます。でもその時が来たら遠慮なく言ってくださいね」
トリフォリウムはふっと気が抜けた様なお顔で笑って、私の頭をぐりぐりと撫でまわしました。髪がぐしゃぐしゃになりますが、嫌いではないので私も声を上げて笑います。
ヘリアンサスとアネモネさまが呆れた様なお顔で苦笑しながら、私たちを見ていました。
「マリカさま、素敵な花冠をありがとうございました。とても嬉しかったです。私、黄色が大好きですの」
いつもの様に侯爵家の馬車で送って頂き、降り際にアネモネさまが声を掛けてきました。頬を染めて言うアネモネさまは、悶絶する程に可愛らしく美しい。もう、私にどうしろと?
と言いますか、好きな色を告白するのに何故そんなにもじもじしているのかしら。不思議に思ってアネモネさまの隣にいるヘリアンサスを見ると、ヘリアンサスもほんのり耳を赤くしています。
・・・ああ!ヘリアンサスの髪の色!ヘリアンサスの黄味がかった金髪の様な黄色が好きだと、そういう事ですね。最後まで甘い二人です。
「お気に召して頂けたのでしたら嬉しいです。また黄色い花をご用意しておきますので、是非遊びにいらしてくださいな」
「本当に?良いのですか?」
ぱあっと、大輪のバラが綻ぶ様に笑いました。あまりの美しさにヘリアンサスも見惚れています。気持ちはわかりますよ。トリフォリウムは・・・うん。いつも通りです。
「はい。お待ち申し上げております」
「嬉しい!またお会いしましょうね!」
そんな挨拶を交わして、トリフォリウムと二人で去っていく馬車を見送りました。




