自己紹介をしましょう
「レペンスさま、アニュアスさま。お二人とも、ありがとうございます」
着ているものや纏う雰囲気から高貴な人たちな気配がしたので、何となく「さま」付けにしてみましたが、訂正されなかったので正解だった様です。レペンスさまはお花屋さんみたいですが、それでも何となく気安く呼んではいけなさそうな雰囲気です。
「えっと、ツバキダニ・マリカだよね。どちらが名前?」
「茉莉花です。椿谷が苗字で、茉莉花が名前」
「では、マリカと呼んでも良いかな?」
痛ましそうな目で私を見ながら、レペンスさまが言いました。
「はい」
「では、僕のこともトリフォリウムと呼んでくれて良いから」
「トリフォリウム、さま」
「呼び捨てで良いよ。僕は貴族じゃないし」
「そうなのですか。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
よくわからないけど、素直に従うことにします。
「俺のことも、ヘリアンサスで良い。俺は貴族だが、マリカは巫女姫なのだし呼び捨てで構わない」
ん?聞き捨てならない言葉が聞こえました。
「私は巫女姫ではないと思いますよ?きっとたまたま喚ばれただけかと」
「いや、間違いない。巫女姫は白い光と共に現れるというし、その黒髪に黒い瞳。それに我々とは違う顔立ちをしているのもその証だ」
なるほど。歴代の巫女姫はどうやらアジア人だったのですね。多分、というか絶対に私は巫女姫ではないと思うのですが、何もわからないので困ってしまいます。でもそれよりも。
「それで、私はこれからどうすれば良いのですか?国の為に何かしなければならないのですか?まさか魔物と戦うとか?」
魔法がある世界なのだから、魔物や魔王がいるのかも知れません。私はその為に喚ばれたのかも?
「この国にもこの世界にも、魔物はいない。それに、巫女姫の召喚術は過去の遺物のようなもので、ここ二百年は行われていない禁術の様なものだ。だから、きみが誰に何の目的で喚ばれたのかも、実のところ何もわからない」
「え・・・?」
国が巫女姫の召喚を行なったわけではないの?
「きみには本当に申し訳ないと思う。この国の者がきみを召喚したのは間違いないのだけど、それが誰だかわからない。はっきりしているのは、国としてきみを召喚したわけではないということだけなんだよ」
二人が交互に説明してくれました。
「お二人がご存知ないだけで、国の主導で召喚が行われた可能性はありませんか?」
「ないな。国が行うのなら、確実にトリフォリウムが責任者として任命されるだろう。王宮筆頭魔法使いなのだから」
なんと!トリフォリウムは魔法使いでしたか!
それはともかく、どうやら私は国の方針として召喚されたわけでないことは間違いなさそうです。かつては国の安寧の為に巫女姫を召喚していたけれど、不要となりここ二百年はしていない。けれど、誰かが何らかの思惑を持ってこっそりと私を召喚した、ということの様です。
百歩譲って国の為とかならまだしも内緒でこっそりって、完全に私利私欲の為よね?そんなことの為に私は喚ばれて、しかも二度と帰れないと?そんなことあるの?
親切な二人の手前、あまり落ち込んではいけないと気丈に振る舞っていましたが、限界かも知れません・・・




