ミモザのリース
「マリカちゃん、それなぁに?」
顎に人差し指をあててこてんと首を傾げ、可愛らしく聞いてくるのはリリウムちゃんです。
「リースの土台を作っているのですよ」
先日の時短営業日の閉店後に森で採取したアケビの蔓を、リース状にぐるぐると纏めながら答えます。今日はトリフォリウムも一緒に作業中です。
「リースって何?」
まぁ!こちらの世界にはリースが存在しませんでしたか!ヨーロッパでは、今の様なフラワーデザインが確立される以前はリースやガーランドが主流だったと聞きましたが、こちらは違うのですね。似ているけれど、やっぱりここはヨーロッパではないのだと改めて認識します。まぁ、魔法がある時点で違う世界であるというのは明らかな訳ですが。その、元の世界ではあり得ない魔法を毎日の様に見ていますのに、私の認識にも困ったものです・・・。
「こうして丸めたリースの土台に、花や葉っぱや実を巻き付けていくのです。花の環っかになって可愛いのですよ」
生花のリースなら、リース状になっている給水フォームに花を挿して作りますので長く生花が楽しめますが、この場合はそうではありません。土台にワイヤーで巻き付けていくだけですので花はお水を得る事はできません、その為、クリスマスリースの様にグリーンを主体にしたり、そのままドライフラワーになっても可愛い花材を使ってつくります。
という事で、今回はミモザのリースをつくります。ふわふわの可愛いミモザをワイヤーを使って土台に巻き付け、一周させて完成です。
「できた」
いつもの様に、手元がほわっと温かくなります。ふわっふわの黄色いミモザの花と葉だけでつくったリースは、それはそれは素朴で愛らしい仕上がりです。
「うわー!何それ、可愛い!!それがリース?」
興奮気味にリリウムちゃんが言いました。食べていたクッキー、落としてますよ?
「そう。これはミモザのリース。枯れた後でも可愛い花を選んでつくれば、ドライフラワーのリースとして長く楽しむ事もできます。壁やドアに飾ったり、テーブルの上にそのまま置いてテーブルリースとしても楽しめますよ」
ミモザのリースがあまりにも可愛くて、ニマニマしながら答えます。
「マリカちゃんの手は魔法の手だね。いっつもお花を素敵にする魔法をかけているみたい」
夢見る様な表情でリリウムちゃんが言いました。魔法の手?何ですかソレ。すっっごく嬉しいです!最高の誉め言葉、嬉しくて泣きそう!!
「え、あの、えっと・・・その・・・ありがとうございます。」
嬉し過ぎてしどろもどろになってしまいました。もじもじしながらお礼を言いますと、隣でリースの土台をつくっていたトリフォリウムが手を拭いて、その手を私の頭の上にぽんと載せました。ほっとして、涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えてトリフォリウムを見上げます。目が合った瞬間、トリフォリウムが目を瞠った様に思いましたが、すぐにいつもの優しいお顔でにっこりと笑ってくれました。
「良かったね」
小さい声で私に言いました。
「そうよ。きっとマリカちゃんはお花の魔法使いなのよ。あの日もやっぱり私に魔法をかけてくれたのね」
リリウムちゃんがうっとりとして言いました。「あの日」とはデートの日の事ですね。リリウムちゃんとアドニスくんの初デートはとても素敵なものだったそうで、二人は晴れて恋人同士となりました。多少は私の花も役に立ったのでしょうか。たまに二人の姿を見かけますが、とてもラブラブで微笑ましいです。
夢見心地な表情のままリースを持ってミモザのふわふわを確かめているリリウムちゃんを眺めながら、私は次のリースの花材を選び始めたのでした。




