王太子殿下
その後、王太子殿下のご依頼でブーケを作りました。残りの花全てを使った、大きな大きなブーケです。私の最近のお気に入りは、先日侯爵邸にいけた様な左右にシャワー状に広がるブーケ。ラナンキュラスにチューリップ、パンジーにビオラにコデマリ等々、華やかながらナチュラルに纏めていきます。
完成しますと、いつもの様に手元がほわっと温かくなります。
「今のは?」
王太子殿下が言いました。祝福がかけられる瞬間が見えたのですね。
「アレンジが完成すると、手元が温かくなるのです。トリフォリウムが言うには、それが祝福がかかった合図の様なものだそうです」
「今のが・・・。そうか、なるほど。で、どんな祝福をかけたのだ?」
「王太子殿下が、この花をご覧になって少しでも癒されます様に、と」
「ほう。」
何だか満足気なお顔で微笑んでいます。
それにしましても、魔力持ちの方にも祝福がかかる瞬間がわかるのですね。魔法使いでなくともわかってしまうとなりますと、あまり人前で花をいけたりしない方が良いのでしょうか。不安になって訊ねてみましたところ、魔法使いと高い魔力持ち以外にはわからないだろうとの事でした。そして、高い魔力を持っていたとしてもわかるのは祝福がかかる瞬間のみで、祝福がかけられているブーケを見てもそれがわかる事もないとの事でした。
ふう。ひと安心です。店頭に並んでいるブーケに祝福がかかっている事がわかってしまっては、私がここにいる事を犯人に知らせてしまう様なものですからね。
「ここのお客さんで高い魔力を持っている人はいないし、魔法使いでもマリカのブーケにかけられている祝福を見抜けるやつなんてそうそういない。それに、僕が一緒にいる以上はマリカを危険な目には合わせないから心配いらないよ」
にっこり笑いながら、トリフォリウムが言いました。王太子殿下は呆れた様なお顔でこちらを見ていましたが、すぐに真面目なお顔になって言います。
「まぁ、そうだな。巫女姫の召喚は今となっては禁術の様な扱いになっている以上、お前の事を公表する訳にはいかない。まして王宮内に犯人がいるとなれば尚更だ。状況によっては私の愛妾として王太子宮に閉じ込めておいた方が安心かとも思ったが、ここにいても大丈夫そうだな」
うん。何だか今すごく怖い事を言われた様な気がしますが、聞き返すのも怖いのでスルーしましょう。
「それに、その祝福の力も、花を通してしか発揮できないそうだからな。そう思うと、召喚をした術者の下でなくここに現れたのは幸運としか言いようがないな」
それに関しましては同意です。偶然、強い力を持った魔法使いの下へ、しかも花屋に辿り着いたなんて。私に取りましては幸運以外の何物でもありません。私はコクコクと頷きました。
「くだらない事をおっしゃっていないで、そろそろお戻りになってはいかがですか。ブーケも出来上がりましたし」
そう言って、トリフォリウムが私が抱えているブーケを奪い、王太子殿下に押し付ける様に渡しました。トリフォリウムと王太子殿下は親しい間柄なのでしょうか。言葉は普段より丁寧ながらも、行動にあまりにも遠慮がありません。
「そう不機嫌になるな。そうだ、明日の朝一番で私の部屋に来る様に。良いな」
「かしこまりました」
真面目な表情でトリフォリウムが頷きます。何か重要な案件の様ですね。直後、王太子殿下はブーケにお顔を埋めて香りを楽しんだ後、私を見て言いました。花と絶世の美青年、素晴らしい組み合わせです。
「巫女姫、花をありがとう。部屋に飾って存分に癒されるとしよう」
誰もが見惚れる様なそれはそれは麗しいお顔で微笑み、颯爽と帰って行きました。




