週二回営業の始まり
花屋の開店が週二回になっても、特に変わったことはありませんでした。時間は短めですし、トリフォリウムはちょこちょこ奥で休んだりしているせいか目立って疲れているという事もなく、本当にこれまでと大して変わりませんでした。変わったことと言えば、花に触れる機会が増えました為に私の機嫌が更に良くなったことくらいです。
以前、「週二回になったら毎回来る」とおっしゃってくださいましたお客さまは、宣言通りお越しくださっています。とても可愛らしいマダムはカメリア・サバティエニさま。サバティエニ商会という大商会の奥さまでした。
今日はカメリアさまのご依頼で、大きなブーケをつくっています。
「大切なお客さまが商談にいらっしゃるの。応接室に飾りたいから、大きく豪華な感じにお願いね」
豪華な感じ、とは、あまり得意では無いのですが、アシスタントだった頃と違い、今の私はプロとして扱って頂いていますので、そんな甘えた事は言っていられません。気合を入れてアレンジしていきます。
大振りのラナンキュラスと八重咲きのガーベラをメインに、ビバーナム、デルフィニウムを添えてふわふわのアスチルベで動きを出します。ラナンキュラスを赤系の色で纏めてみましたので、豪華な感じに仕上がったのではないでしょうか。
手元で纏めた状態でカメリアさまにお見せします。
「まぁ!良いんじゃないかしら。豪華と言ってもどことなく可愛らしくて、私の好みだわぁ」
ああ、良かったです。カメリアさまは可愛らしい雰囲気な方ですので、花にも少し可愛らしさを取り入れた方がお好みかと思ったのですが、正解だった様です。ぱあっと花が咲いた様な笑顔を向けられて、思わず照れてしまいます。
「では、これで纏めますね」
スパイラル状に纏めた茎を麻紐で結びますと、ほわっと手元が温かくなります。いつもの完成の合図です。
大切な商談の為に応接室に飾る花との事でしたので、商談が纏まる様にと願いながらつくりました。いつもにこやかに花をお求めくださるカメリアさまのご主人のお仕事、うまく行くと良いですね。
お昼を少し過ぎた頃には、家にいける為の花を残してあと少しになっていました。切花のままでも良いのですが、このお店のお客さまは自分で花をいけるのは苦手な方が多い為、ブーケにしておいた方が花器にそのまま挿れるだけで纏まるので好まれる様に思います。という事で、残りの花もブーケにしてしまう事にします。
二つくらい、ブーケにできるかしら?と思いながら花を手に取りますと、お客さまがやってきました。
「いらっしゃいませ」
お店の入り口に顔を向けますと、そこにはものすごい美貌を湛えた青年がこちらに向かって歩いて来ていました。
「ほう。お前が巫女姫か。なるほど、面白いな」
そう言って私に手を伸ばします。銀髪に綺麗な紫の瞳の、イケメンなんて言葉では済ませられない様な美貌の青年は、口振りからしますと私のことを知っている様です。
「えっと・・・」
伸ばされた手が私の顔に向かっている様で、ちょっと怖いです。恐ろしい程の美貌と威圧的な雰囲気に押されてどうしたものかと迷っていますと、突然視界が遮られました。
「お戯れはおやめください」
目の前にはトリフォリウムの背中がありました。私と青年との間に立ってくれた様で、伸ばされた手を掴んでいました。




