私の居場所
今日は四回目の花屋開店日です。私がこの花の王国の王都ハイドランジアに来て一カ月が経ちました。
この一週間は一歩も外に出ずに過ごしました。一人では外出しない、をきちんと守りました。家事をして、本を読んだり、ブーケや髪飾りやアレンジメントのデザインを考ていましたので、何事もなく楽しく穏やかに過ごせました。幸いな事に元々インドア派ですので、一週間外出できないとなりましてもさほどストレスを感じる事はありませんでした。
そして、今日はリリウムちゃんの記念すべき初デートの日という事で、先程リリウムちゃんを送り出したところです。今日のリリウムちゃんは、サイドアップにした栗色の髪を左に垂らし、フリルたっぷりの真っ白なブラウス、後ろに大きなリボンの付いたハイウエストのサーモンピンクのロングスカートという、初々しくも愛らしい装い。お洋服につきましては事前に聞いていましたので、それに合わせた髪飾りを用意していました。
「リリウムちゃんのデートがそれはそれは素敵なものとなります様に」
そんな願いを込めながらつくった髪飾り。
スカートと同じサーモンピンクのバラに白いミニバラ、ピットスポラムを添えて纏めた髪飾りを、纏めた髪の根本の耳の後ろにピンで固定します。こうすれば、アドニスくんが隣を歩いていてもお向かいに座っても、どんな時も花に彩られた可愛いリリウムちゃんを見て頂く事ができますからね。
「マリカちゃん、ありがとう!すっごく良いよ!私、頑張るね!!」
キラッキラな笑顔でリリウムちゃんは出掛けていきました。いやもう、可愛過ぎます。
いつも以上に愛くるしいリリウムちゃんを見たお客さま達より、髪飾りのオーダーをたくさん頂きました。先日私が試作品を付けていた時以上の反応です。当然ですね。やっぱり可愛い女の子と花の相乗効果は素晴らしいものがあります。
現代日本におきましては、結婚式やパーティー以外では花の髪飾りを付けることは殆どありませんが、こちらの世界ではそうでもない様です。「花の王国」というだけあって、花がより身近なものなのかも知れません。私に取りましてはとても嬉しい事です。
「来週から二回開店するわけだけど、マリカは大丈夫?」
突然、トリフォリウムが言いました。そう、もう一日開店するという案がようやく纏まり、来週から開始することとなりました。大丈夫も何も、私には嬉しいだけですが?
「大丈夫ですよ。時短ですし、トリフォリウムこそ大丈夫ですか?無理だけはしないでくださいね」
「うん。まぁ、奥で休んだりしながらだし問題ないよ。そもそも、マリカが来てからは特に店で何もしていない気もするし」
そんなことありません。大変な水揚げ作業をいつも率先してやってくれています。まぁ、それ以外は割と私がしていますが、私が花に触れたがるから敢えて色々させてくれているのだと思います。ありがたい事です。
「ここの花を喜んでくれる人が増えるのは僕も嬉しいんだ。祖母の大事な店だから週一回だけしか開けられなくても継続したいと思っていたけれど、僕ではただ切花を売るだけしかできなかった。お客さんも減る一方だったしね。この店が、またこんなに活気に満ちるなんて思ってもいなかったから、本当に感謝しているんだ。ありがとう、マリカ。きっと祖母も喜んでいるよ」
私の頭を撫でながら、いつになく優しく言います。嬉しい。大好きな花に触れて、その事で喜んで頂けるなんて。
ここは私の生まれ育った国でもないし家族もいないけど、この優しい魔法使いのおかげでここで何とか自分の居場所を築いていけそうな気がします。それがこのお店なのか他の場所なのかはわかりませんが、何とかやっていけそうな自信が少しだけ着いたのでした。




