知るということ
この世界に来て、取りえず受け入れたつもりでいて、その後元の世界に帰れないことを実感して落ち込んで、更に受け入れて、ようやく前向きに暮らし始めて楽しめる様になってきた、そう思っていました。何らかの良からぬ思いを持って私を召喚した人のことなんてすっかり忘れて。
トリフォリウムは、私がその現実を忘れて楽しく暮らしているならと、忘れさせたままで私を守ろうとしてくれていたのです。張本人である私だけが、何も知らず何も気付かず呑気に守られていたのです。
「はあ・・・。なんて情けない」
心底情けなくなりました。こども扱いされるのも納得です。つい先程まで、あんなに楽しい気分でしたのに。
「どうしたの?大丈夫?」
トリフォリウムが心配そうに私の顔を覗き込んできます。
「私だけ、何も知らなかったのですね。知らずにトリフォリウムに守られていたのですね」
思わず俯いてしまいます。
「何も知らせていなかったのだから当然だよ。ここに慣れるまでは楽しいことだけ考えていて欲しかったし。結界を張ったのも魔力を纏わせたのも僕がしたくて勝手にしたことだからね。マリカは、むしろ本人に告げずに勝手に何やってるんだ、って怒っても良いくらいだよ?」
肩を竦めて笑いながら、そんなことを言ってきます。多少はそうなのかも知れませんが、でもやっぱり私の無自覚さと呑気さに問題があります。
「今日、ヘリアンサスに言われなければ、犯人を捜していることも結界のことも何もかも言わなかったと思う。でもマリカに自覚してもらった方がやっぱり安心だし、その方が僕も守りやすいかと思ったんだ」
「守りやすい?」
「うん。勝手に魔力を纏わせているのも、若干後ろめたいものがあったからね」
そういうものなのでしょうか。魔力というものがわからない私にはよくわかりません。
「あの、守ってくれてありがとうございます。私が何も知ろうとしなかったのがいけないのですが、私だけが何も知らずにただ守られているのは、ちょっと嫌です。自分でできることはちゃんと自分でしたいです。だから、これからは教えてください。犯人のことやそれに繋がること、わかったら必ず教えて頂けますか?」
「わかった。約束する。ちゃんと教えるから、マリカも無理はしない様に」
自分が危うい立場にいることをきちんと理解して、いつ犯人に見つかるかもわからないということもしっかりと自覚しました。
一人で外出しないこと。まずはこれを遵守したいと思います。




