知らなかったこと
帰宅後は、今後の週二回営業について改めて話し合いました。花を納めてくれている契約農家さんとも相談しなければなりませんので、すぐにという訳にはいかない様です。それでも、花に囲まれて過ごせる日がもう一日増えるというだけで、もう嬉しくてニヤニヤしてしまいます。
「嬉しそうだね。マリカは本当に花が好きなんだねぇ」
とても優しい声でトリフォリウムが言います。今は寝る前の日課のおしゃべりの時間。
「はい。小さい頃から花に囲まれて育ってきましたし、花に触れるのが当たり前の生活でしたから。遊びよりも花に打ち込んでいましたので、周りの友人は少し呆れていましたね」
「遊びよりもかぁ。僕にとっての魔法みたいなものだね」
トリフォリウムは魔法道具や魔法の研究が大好きなのですものね。それこそ、寝る間も惜しむ程に。
「そうかも知れませんね。今はどんな研究をしているのですか?」
お仕事についてはあまり話してくれませんが、研究についてくらいなら聞いても大丈夫かしら?思い切って聞いてみます。
「うん。今は研究というか何と言うか・・・」
あ、言いたくなさそう。そのまま黙ってしまいました。
「あの、」
「マリカを召喚した犯人を捜しているんだ」
私の言葉を遮って言いました。
「マリカを召喚したものは王宮にいる。マリカがここにやって来た時、王宮内で大きな魔法が使われたのを感じたんだ。でもその痕跡はきれいに消されていて、誰がやったのかまではわからなかった。今はその消された痕跡を少しずつ復元して探っている」
今日、犯人がまだわかっていないという話題が出ましたが、ずっと捜してくれていたのですね。忙しい合間を縫って。
「お忙しいのに、お仕事を増やしてしまっていますね」
「むしろ、最優先事項だよ。マリカが気にすることじゃない」
少し厳しいお顔で言います。
「本来、召喚を行った術者の下に巫女姫は召喚される筈なんだ。でも術者の力量が足りずそうはならなかった。そうはならなかったけど召喚の手応えは感じているだろうから、今頃は城下を探していると思う。だから、マリカには本当に気を付けてほしい」
ゆっくりと、こどもに言い聞かせる様に言います。私は急に心細くなってトリフォリウムの袖を掴みました。
「決して一人では出掛けない様にして、マリカは危険に晒されていることを自覚して。ヘリアンサスの言う通り、自覚しないことには警戒もしないだろうからね」
最近は食材等もトリフォリウムがお休みの日にまとめ買いをして、私がお買い物に出掛けなくても良い様にしてくれていましたが、私を一人で出掛けさせないためだったのですね。
「はい」
心遣いに感謝してお返事をしてみたものの、心細さが伝わったのでしょうか。私を落ち着かせる様に髪を梳きます。
「大丈夫だよ。この家にも店にも結界を張っているから。店の方は、お客さんが来るからさすがに弱めの結界だけどね。それにマリカは僕の魔力を纏っているから、僕の魔力を纏った子に何かしようなんて魔法使いはいない筈だよ」
なんと。初めて聞く事柄が二つもありますよ?結界はまだしも、魔力?
「あの、魔力を纏うとは・・・?」
「ああ、マリカにはこうして触れて僕の魔力を纏わせているんだよ。主犯かどうかは別にしても、術を行使したのは魔法使いだろうからね。魔法使いなら僕の魔力がわかるだろうから、マリカに何かして僕と敵対しようなんて思わないんじゃないかなって」
さらっと言いますが、魔法使いならば、誰もトリフォリウムと敵対する筈がないということですよね?王宮筆頭魔法使いとは、そんなに恐ろしいものなのでしょうか。お仕事についてあまり話さないので、王宮魔法使いがどんなことをしているのかよくわかりません。聞いたことがあるのは、魔法や魔法道具の研究をしていることと王宮に結界を張っていること、それくらいです。
何も知らずに呑気に守られていたことに、少し釈然としないものを感じました。




