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花屋のこれから

「終わった?」


 リリウムちゃんを見送ると、奥に篭っていたトリフォリウムが出てきました。何だか長い間閉じ込めてしまった様な気がします。


「はい。ごめんなさい。長くなってしまって」

「うん。大丈夫。と言うかさ、リリウムの声大きいから、結局全部聞こえてたんだよね」


 苦笑いしながら言いました。


「そうでしたか。いえ、まぁ、私もそんな気はしていましたが・・・」

「で、作った髪飾りがそれ?」


 そう言って、私の耳の上の辺りに付けた髪飾りに指の背で触れます。


「はい。どんなものか見て頂こうと思って作ったのですが、希望も聞かずに私が花を選んで作ったので買い取って頂く訳にもいきませんでした。この花は私が買い取りますので」


 そう言うと、え、と驚いた様なお顔になります。


「いいよ、それくらい。とても似合ってて可愛いし。今日はずっと付けていたら良い」


 先程までの無表情が嘘の様に優しく笑って、髪飾りから外した手で髪を梳きます。それが心地よくて、私は目を閉じます。いつの間にか、トリフォリウムに髪を梳かれたり頭を撫でられたりすると、落ち着く様になってしまいました。いつか、ゴロゴロと喉を鳴らせそうな気もします。


「この髪飾りには、どんな祝福をかけたの?」

「リリウムちゃんのデートを想定していましたので、リリウムちゃんがより可愛く見えます様に、と願いを込めました」

「リリウム限定なんだね」

「そうですね。でも私が付けてしまいましたので、今はきっとただの花の髪飾りです」

「だとしても、似合ってる」

「ありがとうございます。今日はよく褒めてくださるのですね?」


 さっきも褒めて頂きました。何でしょう、そんな気分なのかしら?嬉しいことですので、ありがたく受け取っておきましょう。




 それからも順調に花は売れていき、更に、私の髪飾りに反応を示す女性もたくさんいました。なかなか見慣れない形でしょうし、萎れる気配も無いので気になる様です。


 お客さまの前で髪飾りを外して、纏めた根元にリボンを掛けてピンで胸元へ付けてみせます。


「こうすると、コサージュにもなるのですよ」

「まぁ!生花のコサージュなんて素敵ね!今度お願いしようかしら」

「はい。是非!」


 四十歳代と思われる可愛らしい奥さまとそんな会話をしながら、ミニブーケを包んでお渡ししました。


「でもここ、週一回しか空いていないのよねぇ。ウィステリアさんがいらした頃みたいに、とまでは言わないけど、もう少し開けられないのかしら?今はほら、魔法使いさまお一人な訳ではないのでしょう?あなたがいらっしゃるのだし」


 ウィステリアさん、とはトリフォリウムのお祖母さまのことです。この方は、どうやら昔からのお客さまなのですね。トリフォリウムと私を交互に見ながら、そんなことを言いました。


「そうですね。もう一日くらいなら開店しても良いかと思っていたところです。彼女と相談して、前向きに検討したいと思います」


 にこりともせずにトリフォリウムが言いました。なんと!初耳ですよ?


「そうなの?まぁ、嬉しいわぁ。そうしたら、私、二回とも来るわ。ウィステリアさんのお花も好きだったけど、あなたのお花も何だかとっても優しくて好きだから」


 そう言って頂いて、胸と目頭がじーんと熱くなるのを感じます。


「ありがとうございます。私も心よりお待ち申し上げておりますので、是非おいでください」


 涙声でそう言ってお見送りをした後、私はしばらく頭を上げることができませんでした。

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