感謝の気持ち
その日の夜、帰宅したトリフォリウムはしばらく呆然としていました。私が元気にお出迎えをしたからでしょう。今朝のお見送りの際にはぼんやりと生気のない状態でしたのに、今は満面の笑みでお出迎えをしているのですから当たり前ですね。
「食事の用意もできていますよ。デザートにリンゴのタルトタタンも焼きました」
「そ、そう・・・。ありがとう。えっと・・・」
目に見えて困惑しています。塞ぎ込んで、そのままおかしな方向に向いてしまったのかと訝しんでいる様でもあります。
「大丈夫です。たくさんご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。それに、ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
「別に迷惑なんてかけられてないよ?それに、何に対するお礼なのかもイマイチよくわからない」
ああもう、本当に優しい人です。
「これまでのこと全てにたいして、です。本当に本当に、感謝しているんです。もしトリフォリウムに会っていなかったら」
「お互いさまだし、こどもは変なこと気にしなくて良いんだよ」
と言って、頭をわしゃわしゃと撫でてきました。この国の成人は十七歳と聞いています。二十歳の私は、ここでも現代日本でも立派な成人の筈です。
「二十歳です。こどもじゃないですよ?」
「こどもでしょ。学生で親の庇護下にあるものを大人とは言わない。それに、この国で二十歳と言えば既に母親になっていても不思議はない年齢だよ」
そう言われると、まぁそうなのですが。末っ子気質な為、同年代よりも若干甘えている自覚もありますし・・・。言葉に詰まってしまった私を、目を柔らかく細めて見ながら言います。
「それに、僕だってマリカに感謝していることがたくさんあるんだよ?マリカのいけてくれた花のせいか最近は調子も良いし、家のこともやってもらってるし。それに・・・」
少しいたずらっぽく笑って言います。
「マリカの祝福の力も側で見られるしね」
「やっぱりそこですよね」
からからと楽しそうに笑っています。
「まぁ、だから、そんなに気にしなくても良いってこと。マリカが感謝してくれるのと同様に、僕もマリカに感謝していることは忘れないで」
「ありがとうございます。でも、改めて言わせてください。トリフォリウム、いつも本当にありがとうございます」
「うん」
にっこりと笑い、私の頭を今度は優しく撫でてくれました。その手が優しくて心地よくて、私は目を閉じて微笑んだのでした。