短編 夢
何かしたいこと…将来の夢とかありますか?
こんな質問をされた人は世の中に大勢いるだろう。
俺はしたいことなんてわからないし、夢もない。しかし、実際ないことはないのだ。だが、それを公にして口に出せるほど俺は馬鹿じゃない。出したところで鼻で笑われるだけなのは分かってる。容姿端麗、才色兼備、なんてこともない平凡な俺は口をつぐんでありきたりな人生を送るだけなのだ。
ある放課後。
「わたし、声優になる!」
隣の席の女の子が口走っていた。なれるわけないだろうと俺はスマホの画面を見ながら小さく鼻を鳴らした。
「ちょっと何笑ってんの!」
俺の肩がびくりとあがり心臓がドキッとした。
しかし、会話の矛先が俺に向くことはなかった。
「いやさ、あんたずっと言ってるなって」
「だってわたしの夢だもん!」
「いや、うちは応援するよ?……なんか、真っ直ぐなあんたが眩しくてさ」
確かに眩しい。一部の選ばれた人間が放つ光だ。
「ねぇ君もそう思うよね?」
このタイミングでか
「ああ、なれたらすごいな」
「なれたらじゃなくてなるんだよ!!」
すごい光だ。
「まぁ、俺はごく普通に就職とかするから…夢とか羨ましいよ」
さてと、帰る準備でもするか、と立ち上がった時
「君には夢がないの??」
何度も聞かれた魔の言葉。夢。
「悪いけど俺は、現実見れてるから。」
感じが悪かっただろうか。そのままロッカーの方へ行きカバンを背負い帰路に着く。
嫌なやつなんて言っているようなそんな気がする。
帰り道。後ろで俺を呼ぶ声がした。
「おいっ!」
俺は振り返る。
「現実なんて言葉で夢を諦めるな!わたしは知ってるぞ!あんたが何やりたいのか!何になりたいのか!」
そう、俺のために言ってくれた彼女は今。俺の横にいる。