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八階 女蛮人達は全滅してしまった!

 ウルに部族を助けてほしいと懇願された次の日。俺は移動迷宮を山の向こう側にある森、ウルの部族が住んでいた集落へと移動させた。


 別にウルの部族を助けにきたわけじゃない。この世界では好きに生きると決めた俺には他人を助ける理由などなく、ここまで移動迷宮を移動させたのは、移動迷宮がどの様に動くのかを確認したかっただけだ。


 それで分かったことなのだが、移動迷宮が移動する速さは人が走るのと同じか少し遅いくらい。だがやはりその巨体のせいで動かすと非常に目立つし、一度動かすと大量の魔力を消費するようで、そう簡単に動かすわけにはいかないようだ。下手に動かすと移動迷宮を狙う侵入者にこちらの知らせることになり、それは俺としては絶対に避けたい。


 俺の理想は人が立ち寄らない場所に移動迷宮を移動させて、そこから動かさないことなのだが、どうやら移動迷宮は長期間同じ場所にいると、新しい土地の魔力を求めて勝手に移動するらしい。最悪、人間の街の真ん中に移動することもあり得るので、そうなる前に俺ができるだけ安全な場所に、気づかれないように移動させる必要があるのだ。


 そして移動迷宮の実験もかねてやって来たウル達が暮らしていた集落は……一言で言えば地獄と化していた。


 家などの建物は森ごと焼き払われて焼け野原となっており、更に焼け野原の中心には、何十人もの女性の死体を積み上げた山があった。恐らくはこの死体の山がウルと同じ部族のアマゾネスなのだろう。


「み、皆……!?」


 予想通り、ここにある女性の死体は全てウルの部族のアマゾネス達だったらしく、仲間達の変わり果てた姿に彼女は絶句していた。積み上げられて山と化している数十人分のアマゾネスの死体は、その全てが怒りや苦しみの表情を浮かべて全身が激しく損傷していて、特に胸には刃物で切り裂かれて何かをえぐり取られたような跡が見えた。


 そして死体の山の頂上には一本の旗、多分ウルの部族を襲った人間の国の旗が突き立てられていて、その旗の先端には一人の女性の生首がくくりつけられていた。その生首の顔には深い憎悪と悲しみの表情が刻まれていて、その表情からは「無念だ」という女性が最期に抱いた感情が嫌というほど伝わってきた。


「母さんっ!?」


 旗にくくりつけられていた生首を見た瞬間、ウルが悲鳴のような声を上げて駆け出し、仲間達の死体でできた山を上っていく。母さんということは、あの生首がここで暮らしていたアマゾネスの部族の族長か……。


「随分と酷いことをするな……」


 俺はアマゾネスの死体の山と、その山の上で母親の生首を抱き締めながら号泣するウルを見ながら呟いた。


 前世では散々殺人現場や死体を見てきた俺だが、ここまで無惨な光景は初めてだった。


 アマゾネスは人間であると同時に魔物でもあるとウルは言っていた。だがそれだけの理由で同じ人間の姿をした相手にここまで残酷な事ができるものだろうか?


「…………! ギント様!」


 思わず考え込んでいると、いつの間にか母親の生首を抱き抱えたウルが俺の足元で膝まずいてこちらを見上げていた。彼女は母親の生首を側に置くと、自分の頭を地面に叩きつけんばかりの勢いで土下座をしてきた。


「お願いします、ギント様! 貴方のお力で母さんを! 皆を復活させてください! もし復活させてくれたら私はギント様の忠実な下僕となります! いいえ! 私だけでなく復活した部族の女蛮人アマゾネス全員がギント様の手足となり、どの様なご命令でも喜んでやらせていただきます! ……でずがら! どうが皆をぉ……!」


 最後の辺りが涙声になりつつも土下座の体勢のまま必死に懇願してくるウル。


 ……まったく、仕方がないな……。


「ウル。その生首、お前の母親を貸せ」


「っ!? ギント様!」


 俺が声をかけるとウルは弾かれたように顔を上げてこちらを見上げてきた。


「まずはお前の母親、族長から復活させる。部族をまとめる奴から復活させたら、他のアマゾネスを復活させた時、説明がしやすいからな」


「……………はい! あ、ありがとうございます!」


 ウルの母親だけでなく他のアマゾネス達も復活させると言うと、ウルは大粒の感謝の涙を流して頷いた。


 別にウルに同情したわけじゃない。移動迷宮を守る為の部下が欲しかった俺にとってこの状況は都合がよかっただけだ。


 屍人形の魔術で復活した者は術者である俺の命令には逆らえないが、自分から俺に忠誠を誓ってくれる部下が大勢手に入るのなら、それを逃す手はない。


 そう、それだけだ。今の俺は自分の為だけに生きると決めたのだから、他人の為に行動なんてする必要ないのだから。

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