六階 ギントは衝撃の事実を知った!
「ここだ」
女性の死体を屍人形にして復活させた俺は、一度彼女を連れて移動迷宮に戻るとその姿を改めて確認した。
復活した女性は十代後半くらいでまだ二十歳になっていないように見えた。髪は艶のある黒髪で肌は見事な褐色、死体だった時は苦悶の表情を浮かべていたから分からなかったが、こうして改めて見るとアイドル並みに整った顔立ちをしていた。そして身につけているのは何かの動物の革で作られたビキニのようなものだけで、それによって鍛えられて筋肉のついた四肢に逞しい腹筋、形の良い豊かな巨乳に柔らかそうな尻肉がよく見える。
その女性の美しさと戦士の逞しさが同居した姿は、正にファンタジーRPGの女戦士そのものであった。
「こんな所に移動迷宮があったなんて……。それに支配者が銀色猪豚鬼だなんて……」
ここまで大人しくついて来た褐色の肌の女性は驚いた顔をして周囲を見回しながら呟く。
「シルバーオーク? それって俺の事か?」
「え? ええ、そうだけど……貴方、随分と人間の言葉が上手なのね? 私の知っている猪豚鬼はそこまで上手に喋れなかったけど」
俺が質問すると褐色の女性は少し驚いてから答えてくれた。
「ああ、俺は少し特別らしいからな。それよりも今言ったシルバーオーク、それとオークがどの様な存在なのか教えてくれないか?」
「いいけど……」
このやり取りだけで分かったが、どうやらオークという種族は俺の知っている物語のオーク同様、そこまで知能が高くないようだ。褐色の女性は少し戸惑いながらもシルバーオークとオークについて説明してくれた。
「猪豚鬼は山で暮らす頭が猪豚で体が人の魔物のことよ。頭はそんなに良くないけど、たまに人間の言葉が分かる頭の良い猪豚鬼もいるわ。そして人間の言葉が分かる猪豚鬼は魔術で武器を作れて、作った武器を他の種族の魔物と物々交換する事もあるの」
「そうか」
「あっ! そうだ!」
俺がオークの説明に頷くと、褐色の女性は突然「大事な事を言い忘れていた」という表情になって口を開く。
「何だ?」
「ちなみに猪豚鬼のお肉って、とっても美味しんだよ。猪豚鬼は狩っていけないと村に言われているけど、たまに出る猪豚鬼の焼き肉が私大好きなんだ~」
「そ、そうか……。それでシルバーオークというのは?」
口からよだれが出そうなくらいうっとりとした顔で言う褐色の女性の言葉に俺は、内心で冷や汗を流しながら次を促す。……正直、オークの肉が美味いなんて情報、知りたくなかったな。
「う、うん。銀色猪豚鬼っていうのは十年に一度、千匹の中に一匹だけ生まれるって言われている伝説の猪豚鬼のこと。私も話では聞いた事があるけど実際に見たのは初めてよ」
そう言って褐色の女性は俺の方に視線を向けてくる。伝説のオークと言うことは、この体にはステータス画面にも表示されなかった特別な力でもあるかもしれないな。
「伝説、か……。それで? 普通のオークとは毛皮の色以外で違うところはあるのか?」
「美味しいの」
「……ナヌ?」
褐色の女性に質問した俺は彼女の返答を聞いて思わず固まった。しかし彼女はそんな俺の様子に気づくことなく言葉を続ける。
「だから美味しいの、とんでもなく。銀色猪豚鬼のお肉を一口食べたらもう普通の猪豚鬼のお肉は食べられないってくらい美味しいの。それで銀色猪豚鬼は雄しか生まれないらしくて、股間にある金玉は特に美味しくて全ての種族が奪い合うくらいだって話よ」
伝説って、伝説の高級食材って意味!? しかも世界中の全ての種族が俺の金玉に夢中!? 全然嬉しくないんだけど!
「……………肉の味以外にオークと違うところはないのか? 例えば普通のオーク以上の怪力があるとか、特別な力があるとか」
「ん~、そういえば……」
俺の言葉に褐色の女性はしばらく記憶を漁った後、何かを思い出したように言う。
「これは聞いた話なんだけど、銀色猪豚鬼のお肉を食べた人は一気に強くなれるらしいよ。美味しくて食べると強くなれる銀色猪豚鬼のお肉。だいぶ昔、この話を聞いた人間の魔物狩り達が大規模な猪豚鬼狩りをしたらしいわ」
褐色の女性がくれた情報は俺が欲しい情報ではなかった。
つまりあれか? 俺は食べるとレベル、あるいはステータスが上がる美味しくいただける銀色のスライムみたいな存在ってこと?
俺は、二回目の人生……いや、魔物生が前世以上にハードモードである事を知り、思わず両手と両膝を床について落ち込むのであった。