二十一階 兵士達は全滅してしまった!
「……ん?」
移動迷宮に入った兵士達が次の区画へと行こうとした時、一人の兵士が立ち止まって後ろを振り返った。
「どうした?」
「いや……。今、何かが聞こえた気がしたんだが……」
「そこ! 何を立ち止まっている!」
後ろを振り返った兵士に別の兵士が話しかけると、その二人に兵士達をまとめる隊長が叱責の声を飛ばす。
「無駄話などするな! 先を急ぐぞ!」
『『はい!』』
隊長が奥へと向かうと他の兵士達も返事をしてから隊長の後をついていく。
「(……なあ、隊長もやっぱり移動迷宮の核を狙っているのかな?)」
「(だろうな。無理はないさ)」
先程隊長に叱責された二人の兵士達が歩きながら小声で会話をするが、隊長も他の兵士達もどこか先を急いでいる様子で二人の兵士達の会話に気づいていなかった。それは二人の兵士達が指摘した通り、一刻も早く移動迷宮の核を見つけて自分のものにしたいという気持ちによるものであった。
兵士達は周囲を警戒しながら移動迷宮の中を進んでいるが、中に入ったはかりの頃と比べて明らかに緊張感が薄れていた。
人間というものは一度自分達に都合のいい想像が浮かび上がると、そればかり目にいきやすいというところがある。
これだけ広い移動迷宮なのに内部には魔物が一匹もいないという事実と、隊長が口にした今まで誰にも見つからず年月だけを重ねた移動迷宮なのではないかという推測から、隊長を含めた兵士達は全員ここが無人の移動迷宮だと半ば思い込んでいた。
そこに加えて移動迷宮核を見つけたら莫大な褒賞金を得られるという欲によって、兵士達の頭の中では緊張感だけでなく異変を見つけたらすぐに本隊に報告するという任務も薄れつつあった。
……それが自分達の命取りになるとは知らないで。
「む? あれは……?」
「………」
兵士達が三つ目の区画に入ったところで隊長は自分達の前方、次の区画へと繋がっていると思われる通路に、十代前半くらいの少女がいる事に気づいた。
「子供? すでに住人がいたのか?」
通路にいる少女の姿を見た瞬間、隊長の脳裏にここは無人の移動迷宮ではなかったのかという疑問と、すでに移動迷宮の核誰かの手に渡ったのかという焦りが生まれる。そして隊長が思わず少女に接触しようと前に出た時……。
ガッ!
「………っ!?」
隊長はすぐ近くで肉を貫く音を聞いた瞬間に視界が真っ暗になりそのまま倒れ、二度と起きることはなかった。
「た、隊長……?」
兵士達がいきなり地面に倒れた自分達の隊長を見ると、一本の矢が兜ごと隊長の後頭部を貫いていた。
「狙撃!? 一体どこか、ら………!?」
隊長が何者かに狙撃されたと知って慌てて振り返った兵士達は、自分達がやって来た入口の上に人が乗れるくらいの出っ張りがあり、そこで数人の女性達が自分達に向けて矢を構えているのを見た。そして矢を構えている女性達は兵士達が数日前に見た顔であった。
「女蛮人っ!? まさか生き残りが……!」
「ま、待て! 止め……!」
兵士達は矢を構えている女性達、女蛮人を見て顔を引きつらせ何かを言おうとするが、それより先に女蛮人は矢を放ち、兵士達は全員矢で体を貫かれて悲鳴をあげる間もなく絶命した。