二十階 ギントは兵士を倒した!
「全員で入るんじゃなくて三人入口に残したか……」
俺は移動迷宮の近くの茂みに身を隠しながら移動迷宮の入口を見張っている三人の兵士を見ながら呟いた。
いっそのこと全員で移動迷宮の中に入ってくれた方が奇襲がしやすかったのだが、流石にそこまで上手くいかないようだ。……まあ、流石に背後の警戒くらいはするよな。
「ギント様、これからどうしましょうか?」
俺が入口にいる三人の兵士を見ていると、隣で一緒に隠れているウルが三人の兵士を見ながら話しかけてきた。今俺の近くには彼女を含めた五人のアマゾネスがいるのだが、全員鋭い目付きで三人の兵士を見ていた。
「どうするって……。あいつらは倒すしかないよな」
「……! ギント様。よろしければあの者達、私達で始末してもよろしいでしょうか?」
俺がウルに入口にいる三人の兵士を倒すと答えると、彼女は俺の顔を見てそう言って、他の四人のアマゾネスもこちらに視線を向けてきた。その目には強い怒りと殺意の光が見えた。
ウルを初めとするアマゾネス達にとってトリアル王国の兵士達は一度は自分達を殺した憎い相手だ。それがあのように無防備な姿を見せていたら、殺気立つなという方が無理な話だ。
恐らくは俺が小さく頷いただけで、ウル達はそれを承認の合図だと解釈してあの三人の兵士に襲いかかるだろう。
俺としては移動迷宮の中に入っていった兵士達が、外の様子が分からないくらい奥に行くまで待っておきたかった。だからそれまで待ってもらおうとウル達をなだめようとした時、入口にいる三人の兵士達の会話が聞こえてきた。
三人の兵士達の会話はここにあったアマゾネス達の死体の山はどこにいったのだろうという話から始まり、そのうち全員殺したのはもったいなかったとか、何人か奴隷にして連れて行きたかったという話になっていく。知り合ってまだ間もないが、それでも俺の部下になると言ってくれたアマゾネス達を皆殺しにしておいて罪悪感を全く感じていない兵士達の会話を聞いて、俺は不思議と静かな気持ちになっていくのを感じた。
怒りが頂点を上回り、人を殺そうと思った時、静かな気持ちになるとどこかで聞いたことがあるが今がそうなのだろう。
「……」
『『……………!』』
俺が小さく手を上げて三人の兵士達の方に向けて手を振り下ろすと、それを合図にウル達五人のアマゾネスが一斉に茂みから出て三人の兵士へ向かって駆け出した。
「な、なん……ぎゃっ!?」
「女蛮人!? まだ生き残り……がっ!?」
ウルともう一人のアマゾネスが三人のうち左端の兵士の首と胸を俺が作った剣で斬り裂き、他の三人のアマゾネスが真ん中の兵士の胴体を槍で貫いた。ウル達の怒りは凄まじくて兵士達への攻撃は一切のなく、二人の兵士の即死は間違いなかった。
「ひ、ひいぃ!」
残った最後の兵士が逃げようとするが逃がすつもりはない。俺は茂みから出て兵士の前に立つと、自分用に作った武器を取り出した。
俺が自分用に作った武器は、大型の鎌の柄尻に片方の先端が分銅の鎖を取り付けた、鎖鎌という武器だ。この武器は前世でも使っていたから取り扱いは慣れたものだ。
「お、猪豚鬼? こんな時に。でも、あれ? 毛皮の色が……ごぺっ!?」
俺は、俺を見て戸惑う兵士の顔に向けて分銅を投げつける。分銅は兵士の顔に命中して、兵士の頭はまるで地面に叩きつけられた果実のように爆散して血と脳漿を撒き散らし、頭部を失った兵士の胴体はゆっくりと地面に倒れた。
「たった一撃か。自分で作っておいてなんだけど凄い威力だな……」
俺は自分で作った鎖鎌の威力に我ながら感心し、それと同時に人間を一人殺してもそんなに罪悪感も嫌悪感も抱かないことから、自分が魔物に転生したことを再認識したのだった。