二階 獅子土謙人はオークのギントに転生した!
「ここは……?」
気がつくと俺は、見たこともない洞窟の中で一人倒れていた。
何で俺はこんな所にいるんだ? 確か俺は町の路地裏で死んだはずだ。それなのに何で生きているんだ?
「誰かが助けてくれたのか? でもそれだったら何で洞窟に……っ!?」
自分の身に何が起こったか考えていると、突然脳裏に情報が流れ込んできた。それは「獅子土謙人」の記憶ではなく「今世の俺」の記憶で、その事によって分かったのはやはり「前世の俺」獅子土謙人はあの路地裏で息絶えており、今の俺は転生して前世の記憶を取り戻した状態であるという事だ。
「転生、か……。そんなのは漫画やネット小説の中だけの話だと思っていたんだけどな……」
俺は自分に起こった出来事を理解すると思わず呟いた。
俺はこれでもネット小説や漫画、アニメなどをよく見るほうだ。魔法使いや超能力者の主人公が様々な苦難の末に仲間達と共に勝利を掴みとるという話を見ていると、忍者で死霊魔術師である俺にも救いがあるような気がして、気がつけば俺はその系統の話を見るのが趣味となっていたのだ。
「まぁ、理由は分からないけど転生できたのは嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ……」
そこまで言って俺は自分の手を見る。そこに見えたのは見慣れた人間の手ではなく、甲の部分が銀色の毛皮で覆われた明らかに人間より巨大な手であった。
「まさか魔物に転生するとは思わなかったな……」
先程脳裏に流れ込んできた今世の俺の記憶には、俺の親と思われる者や知り合いの姿があったのだが……彼らは全員人間ではなく、頭が猪で体が人間の魔物達であったのだ。
「オークってやつだよな?」
頭が猪で体が人間の魔物オーク。スライムやゴブリンと同じくらい高い頻度でファンタジー系の作品に登場する魔物で、いわゆる雑魚だ。
正直な話、転生するならもっと強そうな種族がよかったのだが、この際贅沢は言うまい。それよりも気になるのは……。
「何で毛皮が銀色なんだ?」
俺がもう一度自分の手を見るとやはり手の甲は銀色の毛皮で覆われており、更に脳裏に流れ込んだ記憶には湖に映った自分の姿を見た記憶もあり、それによると他のオーク達は毛皮が茶色であるのに俺だけは毛皮が銀色であった。
「これって特異体ってやつなのか? ……まあいいか。それよりもまずは『ステータス画面』」
何故俺だけ毛皮が銀色なのかは分からないが、いくら考えても分からなかったので一先ず後回しにして、次に気になった事を試してみることにした。俺が「ステータス画面」と口にすると目の前に一枚の光の板が出現する。
「おおっ! やっぱり異世界転生だったらこれは定番だよな」
単なる思いつきだったが、実際に試してみると本当に現れたので思わず興奮してしまった。俺の予想通りならこの光の板、ステータス画面には今の俺の正確な能力が記されているはずなので早速見てみた。
[???]
力量:1
生命:53/53
魔力:1018/1018
才能:1035
[能力]
筋力:13
耐久:19
敏捷:8
精神:11
[魔術]
★武器創造Lv1、★屍人形Lv1、★生霊操作Lv1
[異名]
現代の忍者、死霊魔術師、正義の刑事、理想に絶望した者、転生者、移動迷宮の支配者
[装備]
武器創造Lv1の魔石(体内)、粗悪な腰布
「これが俺の能力か……。これって強いのか? 『魔力』と『才能』は妙に高いけど。それにこのハテナマークってもしかして俺の名前か?」
俺には獅子土謙人という名前があるがそれはあくまで前世の名前だ。今世の俺にはまだ確かな名前がないのでステータス画面に名前が記されていないのかもしれないな。
「俺の新しい名前……そうだな『ギント』とでも名乗るか」
謙人と毛皮の銀色からとった名前だが、そこまで変な名前ではないだろう。そう思っているとステータス画面の「???」の部分が「ギント」にと変わった。
こうして俺の第二の人生……いや、魔物生か? とにかくオークのギントとしての生活が始まったのであった。