十一階 移動迷宮は成長した!
「さて……。そろそろ始めるか」
俺は西に傾き始めた太陽を見ながら一人呟いた。ウルの頼みを聞いて七十五人のアマゾネス達を復活させ、彼女達の頂点に立った俺だがやるべき事はまだまだ沢山ある。
その中でも最優先でするべきなのは、俺を含めたここにいる全員の寝床と食糧の確保だ。
レベルを最大まで上げた屍人形の魔術で復活させたアマゾネス達は、生前と全く同じ肉体なので餓え寒さも感じる。俺が魔術を止めない限り、彼女達はその程度で死ぬ事は決してないがそれでも辛いものは辛いので何とかしなければならないだろう。
だが勘違いしないでほしい。これは別にアマゾネス達に同情したわけではない。
これはアレだ。俺も昨日から何も食べていないので腹が減っているのと……腹を減らしたアマゾネス達の視線が怖いからだ。
昨日ウルからオーク、特に俺の種族であるシルバーオークの肉が非常に美味だという話を聞いてから、俺は空腹になったアマゾネス達の視線が怖くなったのだ。もちろんアマゾネス達が俺を本当に食おうとしないのは分かっているのだが、それでも本能的な恐怖をどうしても感じてしまうようになってしまった。
そう、それだけだ。俺がアマゾネス達の寝床と食糧を確保する理由はそれだけだ。
それで全員の寝床と食糧を確保しようと思うのだが、周囲の森はアマゾネス達を襲った人間の国……確かトリアル王国だったか? によって燃やされて周囲には獣の気配すら感じられない。こんな状況ではとても全員の食糧を集めるなんて無理だと思われるが、幸い俺には頼もしい味方がいた。
「主人様? どちらへ?」
俺はガルの言葉に答えず移動迷宮に歩み寄ると、移動迷宮の外壁に手を当てて意識を集中した。
力量が上がった時、俺の脳裏に一つの情報が流れ込んできていた。それは移動迷宮は力量が上がると「成長する力」を手に入れて、移動迷宮の支配者はその「成長する力」を使って移動迷宮の外部と内部を自分の思う通りに成長させる事ができるということ。
移動迷宮の大きさを変える。内部に壁を出現させて一つの階層にいくつもの区画を作る。落とし穴や毒ガスといった侵入者を撃退する罠を設置する。内部に建物を建てたり草原や湖といった地形を作って部下が戦いやすい環境を整える。
移動迷宮の支配者は自分の思う通りに移動迷宮を成長させて、その特徴を上手く活かして侵入者と戦うのだが、大きな変化は「成長する力」を大きく消費する。だから移動迷宮を成長させるときは、どの様な移動迷宮にするかよく考える必要がある。
「いくぞ。……」
「こ、これは……!?」
「移動迷宮が大きく……!」
『『……………!?』』
俺がイメージを固めてそれを移動迷宮に送ると次の瞬間、移動迷宮は最初の数倍の大きさとなり、それを見たガルとウルが驚きの声を上げて他のアマゾネス達が絶句する。俺はそんなガルとウルの親子を初めとするアマゾネス達にと振り返り言った。
「今日からこの移動迷宮が俺達の住み処だ」