6話
学園長が言った事はよく理解出来る。
自分の立場を考えなきゃいけない事も。
その為に防衛と戦術を学ばなきゃいけない事も。
――――でも、5分走っただけで息切れで吐きそうになるんですけども!?
減力病。
常に体力、筋力、あらゆる体の力が常人の2分の1となる病。
俺の持病の一つ。
言わば、魔術による一時的なデバフが永続的になったモノ。
「同じ戦種になれたと思ったら、お前マジで体力無かったんだな!」
陸人だ。ぶっ倒れていた俺に水を持ってきてくれた。
学園長の説明の後寮でばったり遭遇し会話をしたが、どうやら無事戦者に選定されたらしい。
戦種は皆同じ寮に入るようだ。
「だから言っただろ?ヒョロヒョロで体力が人より劣るって」
「ははは! まぁ訓練で体力付けてけば良いじゃん。それにしてもお前がヒーラーに定められるとは思わなかったわ」
本当はマーシャルだという事は、全生徒にも、家族にも、誰にも明かしてはならない。
学園長は隠れ蓑として「選定はヒーラーだった」という事にしてくれた。
ヒーラーは戦種の中の補助職、回復役。
薬草調合が未熟な真人、回復術の未熟な魔人や秘人がなる職業だ。
上位職であるヒーリングマスターの精製した回復薬を持ち、自軍を回復しに周る事が仕事。
常に移動し続け、何十キロもある回復瓶を背負わなければならない為かなりの体力が必要となる。
これでも戦種の中では一番楽な上、生存率が高いとしてそこそこな人気職らしい。
ヒーラーに選定される者は、ヒーリングとの関連性の他、常人以上の体力を有する事が条件となる。
つまり、俺以下の能力の人はここに誰一人としていない。
今いる戦種の人たちと戦争に出たら最弱なのは俺。一番に死ぬのも俺。
200年前の、先代マーシャルはずば抜けた頭脳と戦者に劣らない肉体を持っていたらしい。
各国の研究者達も頭脳と体術の両立がマーシャル選定の絶対条件だと考えていた。
…………正直今の俺にはどちらも無いと思う。
本当に俺はマーシャルの選定を受けたのだろうか……。
「どうしたの、そんなうずくまって」
顔を上げるとレムリアが目の前に立っていた。
「いや……体力無いのになんでヒーラーなんか選ばれたのかな、と自分の心に問いかけてた」
「選定は絶対。間違いは無い。だから自信を持って」
本当はマーシャルなんですけどね。
嘘をついているのが心苦しい。
でも、良い意味でも悪い意味でも正直な魔人のレムリアが本気で心配してくれたんだ、頑張ろう。
「ちなみに、レムリアは何だった?基礎授業一緒だから戦種なのは分かるけど」
「……秘密」
そういわれたらどうしようもない。
体力と筋力(魔力)の上昇を目的としたこの基礎鍛錬授業は全戦種の生徒合同で行うが、職業別の専門授業は職業別グループに分かれ、完全に非公開で行われる。
同じグループだったり本人からのカミングアウトが無ければ職業は分からない。
逆に偽る事も出来るからオレにとってはありがたいんだけど。
「本人が秘密にしたいなら仕方ないか。そろそろ専門授業の時間だ、またな」
「ええ、また」
本来、ヒーラーなら専門授業はヒーラークラスに行きグループで鍛錬が行われるが、そうじゃない俺は一緒に受けるのはマズいとの学園長の判断で、俺の場合基礎体力不足という体で個人鍛錬にしてもらえた。
「と、いう訳で。私は天束紫音。選定の時振りね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
選定の時にマーシャルだなんて間違いだ!と騒いでいた教員だ。
俺の専門授業は、これ以上本来の職の情報が広がらないようにあの時いた教員が就くらしい。
「あの時は間違いだなんていってごめんなさいね! 本当に、現状文献でしか確認が取れない職業だから石の不具合か何かかと思ったの。
マーシャルの君がいたら有事の際、この国は安泰よ。
ところで、体術はどれくらい得意?」
とても良い笑顔で問いただしてくる。
それに対しとても答え辛い質問に、思わず苦虫を嚙み潰したような表情になってしまう。
恐る恐る俺は自分の体質の事、体術とはかけ離れた存在である事を伝えた。
「病気が再発する体質……? 体力が人の2分の1……? 体術なんて使えもしない……!?」
とても衝撃を受けた表情をされている。
「学園長からマーシャルについて全てお聞きしました。正直俺は戦場では使い物にならないと思います」
「あはは…… 君、魔術とか奇跡とか呪術とか使えたりしない? するでしょ? はは……」
「俺、見るからに真人でしょうよ!?」
「物は試しって言うじゃん…… 少しでいいから試そうよ。ね?」
先生が狂い始めた……。
でもまぁ先代マーシャルの話が話だけあって、俺の最弱っぷりを知ったらその差でこうなるのも分かる。
「少しずつ鍛錬していけば良いじゃないですか! 俺の正体がバレるまでは戦争なんて無縁なんですし」
「それがそうとは行かないのよ! 数日前、東の国で魔王が動き始めたなんて噂が……あっ」
「……ッ!?」
――――――魔王だって……!?