5話
「マーシャルとは戦場の司令官、と言ったね」
学園長室の椅子に腰をかけ、一息ついたら学園長が口を開いた。
「先ほど職員同士で言い争いが起きた事を詫びよう。しかし、彼らが言ってた事は全て本当でね」
「マーシャルは今までに世界で1人しか選定がされなかった職業だ。
それ以前に現れただろう形跡は一つも無く、それ以降誰も選定されなかった。
その選定された1人は、約200年前この国に現れた。
1万とある軍の全てを統率し、真人、魔人、秘人全てを連携させ戦争中だったこの国を勝利に導いた。
全ての種族を連携させるなんて奇跡に近いだろう?
なんせ、教育する立場の大人でさえ、ああも言い争うからね。」
学園長はフッと失笑を交えてそう言った。
「我々の国の領土がここまで広く、教育と医学が進んでいるのもその勝利のおかげと言っても良いだろう。
そして戦後、全世界で一つの仮説が生まれた。
――――マーシャルが誕生した国は、全世界をも統べる事が出来る。
マーシャルが率いたこの国の勝利は敵国から見ても一目瞭然、完璧な采配だったらしい。
「彼がいる国は、即座に世界を統一する事が可能だろう」と言った敵国兵士の言葉が、文献に多く残されてる位だ」
「でもあれから200年、戦争は未だ一度も起きていない。
この意味がわかるかね?
そう、どの国でも200年間、マーシャルは生まれなかった。
各国がマーシャルが誕生する鍵を研究し、その要素を詰め込んだデザイナーベビーを作り上げてもだ。
マーシャルは選定の不具合、実際には在りもしない職業と結論付けられた。
そんな中、君がマーシャルの選定を受けた。分かるかい?」
「俺がそんな凄い職業を……なんで……」
言葉が出なかった。
自分の選定に驚愕を受けたから?
なぜ自分が?という気持ちから?
そんなんじゃない。
即座に直感した。
――――全世界による戦争が起こる。
「マーシャルを選定される程の人間だ、やはり君は察しが良い。
そう、戦争が起こる。
国の存命を賭けて。勝利を賭けて。マーシャルである君の命を狙って」
「国によっては、君を自国の統率者として誘拐しようと企む所も出るだろう。
人を操る呪術が存在するんだ、一か八かを狙って。
500年前の戦争は運が良かった。国の領土の拡大と繁栄が一番の勝利報酬だったからね。
でも今回は違う。
一つの国が、全世界を支配出来るようになる。
戦後これらの情報は全国の領主及び学校関係者に伝わってるから、君の存在が知れたら即戦争が巻き起こるだろう」
「俺は……どうしたら良いんですか?」
「幸い君の存在は、現時点で私とその他数名の職員しか知らされていない。
全員には口止めをしているし、知れ渡った場合の重大性を理解している者達だ。
マーシャルの存在が公にならなければ、戦争も起きる事は無い。
しかし、完全に隠し通せるとは言えない現実が待っている。
そうさな……言った通り、仮にマーシャルの誕生が知れ渡り戦争になった場合、何よりも一番に狙われるのは優君、きみなんだ。」
「はい、理解しています」
「そういう事だ君、戦種の生徒に交えてこの学校で防衛術を学ぶと良い」