4話
「そんなあわよくば精神で戦者になんてなれないでしょう。確実になると意気込まないと」
今度は反対の隣から声がした。
「私はレムリア。……レムリア・ウィリアムズ。志望は戦種。詳しくは秘密。よろしく」
声のする方へ目を向ける。
微かに尖った耳をした少女が座っていた。
尖った耳は魔人の特徴である。
本当に微かな上髪で隠れてる場合が多いので、見た目で種族を判断するのはとても難しい。
しかし魔人には、他の種族とは大きく異なる1番の特徴が存在する。
「よろしくな! しかし魔人はズバズバ正直に言いすぎだ…… 正論だがな!」
「そうなのね、ごめんなさい。でも正論でしょう?」
感情の起伏が恐ろしく弱い。
感情表現が無に等しい。
故に思った事をオブラートに包まず発する。
感情の豊かな真人とは、喧嘩になる事もしばしば。
「でもま、確かにレムリアの言う通りだな! 緊張で弱気になってた。俺は戦者になる!」
「……頑張って。同じ戦種になったら会う機会も増えると思うわ」
陸人は馴れ馴れしいが素直で寛容なんだろう、衝突は起きずに済んだ。
「次の列の方! お進み下さい」
会話をしていたら、あっという間に順番が来たようだ。
正直、選定を目前にした今でも不安が身を纏う。
俺は何の職業を選定されるのか? この体質は影響してくるのか?
…………俺に出来る仕事はあるのか?
「そんじゃ、もし校内であったらよろしくな!」
「同じく。では先に失礼するわ」
2人の声で我に戻る。
思えば前世じゃヨボヨボの死にかけの爺さんが剣職人をしてたんだ、俺に出来ない仕事はないな!
ははっと空笑いをして前へ進む。
「それでは、多々良優さん。これより選定を開始します。目の前の石を手にお取り下さい」
随分とかっちりとしているが、前と選定の方法は変わってないな。
――――この選定で、今後の全てが決まる。
恨みっこなしの大一番だ。
良い事ありますように! と願い石に手を伸ばした。
「あの、俺はどうしたらいいんでしょう?」
石を握ってからおよそ10分が経過しただろうか。
普通であれば物の1分もしないで反応が起こるが、手の中の石は何も変わらない。
握って5分経った辺りから脂汗が止まらない。
立会人もずっと首を傾げている。
「……おかしいですね、少しその石を見せて頂けますか」
脂汗でベタベタの石を申し訳なさげに手渡す。
「…………ッ!? まさか…… 優さん、これを見てください」
なんかヤバい反応してるのかなと、余計に脂汗が噴き出つつ石を受け取り覗き込む。
――――そこには、憶測だがこの世界全土と思われる景色が映り込んでいた。
「あの、これがどうかしたんでしょう……ってあれ!?」
立会人に何の反応か聞こうと思ったら、目の前からいなくなっていた。
え、何? この後石が爆発するから退避でもした?
焦っていると、すぐに立会人が数名の人を引き連れ戻ってきた。
その中の1人は、先ほどの入学式で学園長挨拶の時に喋っていた人だ。
ええ、学園長ですね。
説明では5分程で選定が終了し、終えた者から寮の自室待機って言ってましたよね。
一体何が起きているんだろうか。
「優君。石を見せてくれるかね」
学園長にそう言われ、石を手渡す。
多分、脂汗でぐっしょりしてると思うので心の中で謝罪をした。
「間違いない、これはマーシャルの選定だ」
学園長の傍で共に石の反応を見ていた人が、何かの書類と石を交互に見つめてそう言った。
「マーシャル、とは何ですか?」
――――初めて聞く職業だ。
前世では、そんな職業存在しなかった。
周りのざわついた反応を見ると、あまり選定されない職業のようだ。
「……マーシャルとは戦場における司令官。全ての軍の統率を行う者だ。」
「しかし、マーシャルの選定を受けたのは今までで世界中たった1人、しかも約200年前の文献でしか確認が取れてないんです。何かの間違いでは!?」
「でもマーシャルがいた時代には、実際その功績が残されている。間違いと決めつけるのは浅慮だ」
大人同士で言い争いが始まった。
多分この人ら、真人と魔人だな。
どうでも良い事を考えている場合じゃない。
マーシャル? 1人だけ? 500年前?
大人の討論も相まって頭が追い付かない。
大人に挟まれ混乱していたら学園長が助け舟を出してくれた。
「優君、1から説明をしよう。学園長室に来てくれるかね?」