3話
――――国立ラウルス・ノビリス学園。
この国唯一の学校であり、世界で五本の指に入る最高峰の学校である。
一番の特異性として全ての職業がこの学校で訓練を行う。
学園の敷地は世界一広く国内の三分の一を占める。
その壮大さから、一種の観光名所となっている。
中でも戦種と医療種に力を入れている事で有名。
現学園長は53代目であるイーサン・ガルシア。
(パンフレットに記載)
らしい。
今まで母さんの配慮で通院とお使いでしか外を出た事無かったから、こんな観光名所があるとは知らなかったな。
職業なんて細かく分類したら数万種なんて軽く超えるのに、一つの学校で全訓練を担うとは恐れ入ったもんだ。
戦種というのは、主に国の為に戦う職業を大まかに分類した物で戦者もここに入る。
国の領土がこんだけ広いんだ、防衛策に力を入れているんだろう。
詳しく言えば、戦者という職業もその中で更に分類されていて剣を扱う者、弓を扱う者、槍を扱う者など色々分かれている。
大雑把に言えば筋力等の肉体の強さを駆使し戦う者をまとめて戦者と呼ぶ。
様々な条件の元に選定される職業だが唯一戦者全員に共通する点がある。
――――真人である事。
まことな人と書いて真人と読むが、これがまた真人以外から良く思われなくて昔戦争が起こりかけたっけな。
真人とはただの人。
魔法も呪術も奇跡も使えないただの人。
故に人一倍感情は強く人一倍肉体の強化に長ける。
他にも魔法に特化した魔人や、それ以外の何かに特化した秘人なんてのもいる。
種族が分かれているが全てを含めて我々は人間と呼ばれる。
ちなみに戦種以外だと基本真人、魔人、秘人はどの職業にもいたりする。
どこでどう判断するかというと筋力や魔力の高さやが一番わかりやすいが、性格や見た目がちょっと違ってたり名前が違ってたりする。
多々良優の俺は真人。
漢字で綴られた名前は真人だな。
前世に同じく。
学園長のイーサン・ガルシアみたいなカタカナで綴られた名前は魔人。
秘人は漢字もカタカナもいるが苗字の概念が無く名前だけ。
まぁ真人と魔人の親の子だったり色んな条件下で例外はいたりするけど。
昔はごく稀だったけど、数百年経った今だから多分異人婚とか増えてる気がするわ。
「それでは今から職業選定を行います。一列目から順にこちらにお進み下さい」
気付いたらあっという間に選定まで来てしまった。
選定は魔力の込められた特殊な石を身に着けたり、持つ事で石に起きた反応から第一の分岐が決まる。
大体の人はこれまでの経歴から、そこで何の職業か分かるが不鮮明な場合、第二の選定を受ける事が出来る。
第一分岐でおよそ5分、第二分岐以上になるとその数倍の時間を要する。
そういや昔、後の人形技師が石を人形の腕に変えた時は人の腕かと思ってビックリしたな。
オレの時は何だったっけな……石が剣に変わるとかだった気がする。
「どんだけ待たされるんだよ~……」
説明されてからおよそ50分程経過した頃だろうか、隣に座っている男がそう呟いた。
目線を向けると明らかに疲れた、待ちくたびれたと言わんばかりの表情をしている。
「まぁこれだけの人数いたらね。でも見た感じあと10分位で俺らの番じゃない?」
「あと10分か! 心臓がドキドキしっぱなしで停止しそうだ」
この男、表情とは裏腹にずっとドキドキしっぱなしだったようだ。
国中の15歳が集まっている為、ざっと見た所十数万人は余裕で居るだろう。
幸い俺の列は前から数えた方が早い位置なので比較的待たずに済みそうだ。
「俺は海陸人。うみにりくにひとと書くからよく新人類とバカにされるがお前はやめてくれよ?
隣の縁だ、選定後は広い校内だし逢う事は無いかもしれないがよろしくな!」
「俺は多々良優、漢字の名前だから同じ真人かな。よろしく」
種族は特に隠す物でもないのでよくこんな感じであいさつと共に明かしたりもする。
「おう、よろしく! そんで、お前職業何希望?
俺戦者とは行かないでも国を守る仕事に選定されてえな!」
主に病院通いでしか人と接する機会がなかったから分からないが、これは普通の距離感なのか?
何か妙に馴れ馴れしいというか、パーソナルスペースに踏み込んでくるというか……まぁいいか。
「俺は特に希望はない。戦者なんて選定されたが最後、血反吐吐くわ首が180度回転しかけるわ、名誉以外良い事何もないぞ?」
「…………なんでお前あたかも経験談みたいに言ってんだよ……?」
ついさっきまで前世の思い出に浸っていたから、そのままの感覚で言葉が出てしまった。
「し、知り合いに戦者がいてさ。いつもそう言ってくるんだ」
まぁ前世の記憶があって、その時勇者で戦者だったなんて言っても誰も信じないからな。
ボロが出ても他人談装えば99%はごまかせるはずだ。
「なるほどな。でも職業に希望ないなんてお前変わってんな」
「オレの見た目ヒョロヒョロじゃん?御覧の通り人より体力が劣るから、この体力に見合った仕事に付ければなんでも良いかな」
「夢が無い奴だな! 学校で肉体を鍛えて剣を持って戦場を駆け巡るとか、ロマン持てよロマンを」
俺はそんな希望とっくに捨てた。
オレの記憶が戻る前から。
こんな体質だ、戦種に憧れはあれど就く事は絶対に不可能だ。
その考えは記憶が戻ってからも。
前世の名誉や思い出を完全に割り切れた訳ではない。
出来る事なら前のように、また戦場に出て仲間と共に冒険をしたい。
だがそれは今の俺じゃ到底無理な話だ。
今は前世で体験出来なかった市民としての生活を幸せに過ごしその中で、あわよくば体質の治療法が見付かれば良いと思う事にしている。